M4小銃の動作不良を防ぐ改造キット

2008.12.6



 火薬の燃えかすによって動作不良を起こすという批判のあるM16とM4小銃について、military.comが改善方法について報じました。武器マニア向けの情報は提供する気はありませんが、これは米軍の正式小銃に関する問題です。

 銃器に詳しくない人のために、簡単に基本事項を説明します。自動小銃は連射する際、発射が終わった弾の空薬莢をボルト・キャリア(以下、ボルト)が後退することで薬室から引っ張り出して銃の外に排出し、ボルトが戻る際に弾倉から次の弾を押し出して薬室に装填し、装填が完了すると同時に撃針が弾薬の尾部を打って弾が発射される仕組みです。これが素早く連続して起きることで連射が実現します。連射が止まることは、兵士にとって致命的です。空薬莢が完全に排出されなかったり、銃弾が薬室に正常に装填されないなどの問題が起こります。こうした場合、ボルトを手動で後退させて銃弾や空薬莢を取り除くこともできないと、その銃は使用不能になります。

 M16とM4小銃は同じ動作システムを持っており、ボルトを前後させる動力は発砲の際に生じるガスの余力を利用する「ガス・オペレーション方式」です。銃身の上部に穴が開けられており、それにガス・チューブが取り付けられ、ボルトの前方にあるガスブロックまでつながっています。ガスの一部はガスチューブを通して、ガスブロックまで届き、ボルトをその圧力で後退させるのです。こうした動作システムは複雑になりがちで、動作不良を起こしやすいといわれています。動作不良を防ぐには、頻繁に清掃し、機構がスムーズに動くようにする必要があります。しかし、軍用銃は多少の汚れがあっても動作する方が望ましく、その点で評価が高いロシアのAK47小銃とM16系小銃は常に比較されてきました。

 記事に戻ります。チューブは銃弾の装填のタイミングを取るため、最後の部分で細くなっています。ここに炭素カスが溜まると、弾丸の二重装填が発生します。軍の調査によれば、海外派遣された兵士2,600人の19%がM4とM16小銃が戦闘中に故障するのを経験しています。その5分の1は、銃器故障のために戦闘から離脱しました。

 アダムス・アームス社(The Adams Arms)は、約10分間で交換・取り付けができるキットを開発しました。このキットは、コロンブスの卵のような発想で、ガスの熱がボルトを加熱させるのを防ぎ、装弾不良を防止します。ガスチューブは廃止し、ガスブロックが銃身のガス穴の上部に取り付けられます。ガスブロックには棒状の部品(ドライブロッド)が差し込まれ、ドライブロッドはボルトにつながります。弾丸が発射されるとガスがガスブロックに流れ込み、ドライブロットを押します。ドライブロッドはボルトにつながっているのでボルトが後退し、次弾が装填されるというわけです。直接ガスがボルトに吹き付けるのではなく、ボルトから離れた場所にガスブロックを設けたのがミソです。これにより、ボルトが加熱して部品が膨張し、動作不良を起こすことがなくなり、ガスチューブがなくなったことで、掃除の必要もなくなったというわけです。ガスブロックは開放性の高い部品で、その中に炭素カスがつまることはほとんどありません。

 説明を文で読むよりも、映像を見た方が理解しやすいでしょう。下の映像を見てください。映像を再生中に右下端のボタンにマウスを重ねると、メニューが表示されます。メニューを選択し、映像の下のエリアをクリックすると、別のデモ映像のリストが表示されます。同社のサイトの映像も参考になります(動作原理テスト映像)。取付方法のpdfファイルはこちら

 このキットは、ジェイソン・アダムス氏(Jason Adams)が考案したもので、コルト社が最初からこの通りに設計していたらと思わせられるものです。しかし、これが米軍に採用されるとは考えにくいところがあります。M16系小銃には装弾不良だけでなく、パワー不足という問題もあります。5.5mm口径のNATO弾は、敵兵に命中しても倒れないという不満が兵士から出ています。この問題も解決するには、銃の口径を大きくしなければなりません。また、それによって装弾不良の問題が自然に解決する可能性もあります(あくまで可能性の問題ですが)。アダムス・アームス社は小さな企業なので、米軍から大量発注を受けた場合、同社だけでは対応できないかも知れません。製造は別のメーカーにするなどの調整が必要でしょう。最後に、米軍のプライドの問題があります。基本装備品である小銃が、伝統的に用いてきたものでは足りず、小メーカーのアイデア商品で改善されるのでは、米軍の面子が保てません。また、この改造キットを採用することで、小銃分野において、髭のアダムス氏は技術顧問となります。今後、小銃の問題に関しては、コルト社とアダムス・アームス社と米軍が常に三者会談をすることになります。これは、大手の武器メーカーを相手にしている方が楽な米軍にとって、あまり面白くない光景です。

 でも、一番の問題は、軍人に影響力の大きいメディアに、こうした小メーカーの改造キットが紹介されるということです。そこまで、この問題は深刻で、改善が望まれているということです。かつて、military.com を中心とする軍事サイトは、ドナルド・ラムズフェルド国防長官の更迭を求める社説を掲載し、同長官は辞任に追い込まれました。アダムス氏の改造キットが正式採用されることはなくても、こうした圧力は事態に少なからぬ影響を与えます。小銃問題が今後どのように展開するのか、注目していきましょう。

 なお、military.comが、ブッシュ大統領が対テロ戦争についての発言を報じていますが、その内容はあまりにも凡庸で、ブッシュ大統領が未だに何も学んでいないことを露呈しています。反面教師として記事を活用したい方はお読みになるとよいでしょう。


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