ようやくイラクのアルカイダがまともな戦術に舞い戻った、つまり我々の側にとってはまずい状況になったことを、ワシントン・ポストが伝えています。
これまで過激な戦術で、無差別にイラク人を殺してきたアルカイダですが、戦術をソフト路線に切り替えることにしたと、アメリカの情報組織のトップが述べています。これが成功すれば、停滞したイラクでのアルカイダの活動が復活するかも知れません。
アルカイダの内部文書とメンバーからの聴取により、組織は混乱しているものの、頭を露出する女性を処罰するような厳しい方針が大衆の支持を失ったことを理解するようになったことが分かったのです。新しい方針は先月示され、米軍やイラク政府に協力していないスンニ派の民間人まで殺すなと指示しています。イラクのアルカイダの指揮官アブハムザ・ムハジル(Abu Hamza al-Muhajer)は、1月13日にスンニ派アラブ人と新しい戦線を開くことを避けるために、本当の敵とだけ戦うように指示を出しています。自分たちと敵対した者たちへの態度も改めるといいます。
すでに米軍によって殺害されたアブムサブ・ザルカウィ(Abu Musab al-Zarqawi)は、イラク人を無差別に殺しました。その結果、アルカイダはイラク人からも支持を失い、記事によれば、2007年に米軍は2,400人のテロ容疑者を殺害し、8,800人を捕虜にして、バグダッドとアンバル州からほとんどを追い出しました。
アンバル州東部のガルマ地区(Garma region)のアルカイダ上級指揮官リヤド・アルオガイディ(Riyadh al-Ogaidi)は、「我々は今まさに直面している困難を否定しない」と述べています。「アメリカ人は我々を打ち負かしてはいないが、スンニ派が我々から転向したことは、我々の多くを打ち負かし、非常な苦痛を被らせた。我々は多くの間違いを犯した」。彼は、2007年6月には12,000人いたイラクのアルカイダのメンバーは、現在、3,500人にまで減っているとも述べています。また、外国人戦士の数は200人を越えない程度の範囲とも言います。米軍は、シリアから密入国する外国人戦士の数は、昨年夏の月当たり110人から今月は40〜50人に減ったと言います。アルオガイディは、イラクのアルカイダのメンバーの大半はイラク人だと主張しますが、米軍は外国から来たアラブ人が指導していると主張しています。アルオガイディは、外国人戦士はイラクに入国したものの、本人が希望するような自爆テロの任務がなく、別の小さな任務を任されたりして失望し、生国に帰る実態も説明しました。
記事には他のことも書いてありますが、重要なのは以上の事柄だと考えます。アルオガイディが言うように、アルカイダが戦術を変更し、イラクのアルカイダの多くがイラク人であるとすれば、彼らが再び支持を集める可能性は十分にあります。また、イラクのアルカイダの実態を米軍が正しく把握していないのなら、今後の対策を誤る恐れが十分にあるとも言えます。しかし、これほどまでにイラクのアルカイダが規模を縮めたとは思いませんでした。その衰退ぶりは予想以上です。判断するのは早すぎますが、数万人という米側の見積もりは元々誤っていたのかも知れません。
去年の夏〜秋から急速にイラクのアルカイダが衰退したことは、本当負に不思議でした。それには理由がなかったからです。増派の成果が出たという理由だけでは説明できない変化でした。それは、アルカイダやイラク国民の変化によるものと考える方が妥当でした。しかし、それが何であるかが分からず、フラストレーションが溜まりました。
アルカイダがまた活発に行動すれば、その結果として、アメリカの大統領選挙に大きな影響が出ます。共和党の候補はおそらくマケインに決まるでしょうが、過去に彼が何度も対テロ戦争で意見を変えたことを民主党が大々的に宣伝すれば、彼が大統領になる可能性は相当に低いでしょう。オバマとヒラリーのどちらかが大統領になるかが問題の焦点です。イラクの状況が酷くなれば、米国民はより大きな変化を望んでオバマを支持するでしょうが、それほど悪くなければ安定志向の気運が高まってヒラリーが有利になると想像できます。
これから夏にかけて、この戦術の変更がどのような影響を及ぼすのかについて、注意深く見ていく必要があります。先日起きた偽装された自爆テロみたいな事件は減り、米軍やイラク政府、あるいは彼らに味方するイラク人に対する攻撃が増加するのかどうかを確認していかなければなりません。そして、アルカイダを支持するイラク人が増えるのかどうかも考えなければなりません。今回の報道で、当面観察で注意すべき点が定まったという感触を得ました。特に、昨年夏〜秋にテロ活動が衰退したのは、対テロ戦争の新しいステージに入ったという観測が正しかったのだと考えます。
さらに、気になる事柄が記事に書かれています。ファルージャの宗教令評議会は、1月17日にはじめてアルカイダによって殺害された民間人は殉教者になるという宗教令を発しました。これが亡くなった人を悼むためのものなのか、アルカイダに対する支持を意味するのか。イスラム教徒の考え方はまったく読みにくいものです。