犬は助けたけども…

2008.2.19



 今日取り上げるニュースは本当にどうでもよい話です。あえて、そういう話を取り上げるのは、アメリカ人の思考方法を理解するためです。military.comが海兵隊員と犬の美談を取り上げました。パキスタンの選挙については、もう少し情報が出揃うのを待ちたいと思います。

 長い話ですが、簡単に言うと、米海兵隊のブライアン・デニス少佐がイラクで犬を助けたのです。ノッブスと名づけられたイラク人の国境警官にドライバーで刺され、肺がパンクしていました。デニス少佐は傷口にネオスポリン軟膏を塗り、犬を暖めるために一緒に寝ました。ノッブスは子犬の頃に耳を切り取られていました。しかし、野犬のボス犬でもありました。手当はしたものの、犬を連れて行くことはできなかったので、少佐の一行はノッブスと別れました。ところが2日後、デニス少佐はノッブスが新しいキャンプに現れたのに驚きました。ノッブスは70マイル(約112km)も車を追跡したのです。こうして、ノッブスは海兵隊のペットになることになったのですが、戦闘地域で動物を飼うことは許されていないため、少佐は友人の元にノッブスを送り、自分が帰国するまで預かってもらうことにしたのです。

 もちろん、この話はよい話です。私も犬は大好きですから、デニス少佐と同じ立場になったら、やはりノッブスを助けるでしょう。アメリカ人は無類の犬好きです。アメリカの大統領は必ずといってよいほど大型犬を飼っています。これは、犬が家庭らしい雰囲気を醸し出すからで、政治家としてのイメージを向上させるためです。もちろん、本人が犬好きなのは間違いがありません。「天と地」の原作者レ・リー・ヘイスリップは、ベトナム難民としてアメリカに渡った女性ですが、著書の中で、夫の家族が危機に陥った犬には強い同情を示すのに、テレビに戦争で苦しむベトナム人がうつっても気にもとめなかった点を指摘しています。これは、今でもあまり変わっていないと思います。アメリカ人が、隣の家の犬とアフガニスタンの人のどちらに関心があるかといえば、間違いなく隣の犬でしょう。アメリカ人は犬の誕生パーティも開くし、犬が食べられるケーキの作り方を知りたがります。

 繰り返しますが、私は犬が好きなので、犬が食べられるケーキなら作ってみたいとは思いますが、戦争の最中に犬の話などしていてよいのかという気になります。英語で「犬の生活」といえば、最低の生活を意味します。この言葉は、犬が残飯を漁る姿からできたのでしょう。その犬よりも関心を持ってもらえない人たちが世界には大勢います。そして、それが常に戦争の火種になっているのです。ならば、そのギャップを埋めることこそ、戦争を防ぐポイントであるはずです。ノッブスはアメリカに渡って大歓迎を受け、多分、テレビの取材も受けるでしょう。でも、こういう話に夢中になっても、それは対テロ戦争の本質的な問題から目を背けるだけです。犬に同情する心があるなら、戦争に備えるだけでなく、戦争を防ぐ方法に目を向けることを、アメリカ人には考えて欲しいと思います。常々、そういう点で、アメリカ人は考え方のバランスを欠いていると感じています。


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