イージス艦「あたご」と清徳丸の衝突事件では情報が錯綜し、かなり制限されていることから、事件の全容が見えにくくなっています。
まず、レーダーに関して訂正があります。「OPS-28型」は水上戦闘用のレーダーで、清徳丸事件の鍵となっているのは航行用レーダーでした。お詫びして訂正します。
新勝浦漁協側の主張では、「あたご」の前方には「清徳丸」を含む7、8隻の漁船が航行していたということです。漁船の一群が船の前方にいたのに、レーダーでまったく探知できなかったとは考えられません。すべてがレーダーに写らなくても、船団の存在は確認できたはずです。そこで考えられるのは、レーダー要員が小さな漁船を正確に掌握できず、清徳丸を把握していなかった可能性です。この種の事件では、船内でのコミュニケーションの欠如、レーダーやソナー情報の誤認などが原因となる場合が多いことを考えると、漁船団の位置を正しく把握できずに衝突した可能性を考えずにはいられません。
衝突の直前に「幸運丸」が「あたご」前方を横切り、その後に、「清徳丸」「金平丸」「康栄丸」が続き、「金平丸」だけが「あたご」を避けるために右舵を切り、次に左舵を切っています。新勝浦漁協の外記組合長が「左へ舵(かじ)を切ったのは金平丸だけ。(見張り員が視認した)緑は金平丸の灯火ではないか」と述べたと報じられています。この場合、「清徳丸」は直進を続けた可能性が高いことになります。こうした接近した船の位置関係を正確に掌握できなかったことが事故を招いた可能性はあります。「幸運丸」が前を横切ったのに「あたご」が何もしなかったのは、「幸運丸」も「あたご」に認識されていなかった可能性があります。7、8隻の漁船の内、後方にいる船だけを「あたご」が認識していたとすれば、減速だけでやり過ごせると考えたのかも知れません。
「なだしお事件」「えひめ丸事件」、あるいは「米艦によるイラン旅客機撃墜事件」など、重大事件が起きた原因は状況の誤認です。原潜グリーンヴィルは、えひめ丸を事前に認識していたにも関わらず、状況認識を誤って衝突しました。イラン旅客機撃墜事件では、上昇を続ける旅客機が降下して攻撃態勢に入ったと誤認したために起きています。本当に些細なミスが積み重なって重大な事件が起きてきたことを考えるべきです。
残念ながら、現在の段階では、「あたご」が漫然と自動操縦で航行したために事故が起きたように思えます。レーダー要員から見張りに対して、レーダーに写っている船が目視できるかを確認させるような確認は行われていないのでしょうか。ブリッジは見張りからの報告が入るのを待っているだけなのでしょうか。当直交代の時間帯であったことを理由に「仕方がなかった」という結論に落ち着くべきではありません。真相がまだ分からないのに、メディアが海自の肩を持つような報道をするのは疑問です。
石破防衛大臣が「情報操作が行われれば辞任」の考えを表明したのは評価します。しかし、すでに情報操作は行われてしまっているのではないかというのが、私の見解です。肝心のレーダーに関する情報はほとんど公表されていません。航行用レーダーの情報は記録されていないということですが、本当なのでしょうか。記録を見られるのが嫌で消去したということはないのでしょうか。レーダー要員が状況を正直に、正確に証言しなければ、真相は闇の中に消えます。
今回の事件を教訓として、漁船の対応としては、周囲の警戒を密にするとか、大型船に気がついた時点で船団に無線で仲間に警告を出すとか、レーダー波の反射を高めるためにリフレクターを装備するといったことを実施して欲しいと思います。また、動きにくくて嫌だとは思いますが、せめて漁場に向かう間だけでも救命胴衣を着用して欲しいと思います。