清徳丸事件:航海長の報告の一部が明らかに

2008.3.3



 「あたご」の航海長は海幕での聞き取り調査において述べた内容が、報道で少し明らかになりました。

  • レーダーでは2隻の漁船しか視認しておらず、この2隻の航跡が重なることがあり、1隻かもしれないと思っていた。
  • 衝突の2分前に見張り員が緑の灯火を視認したが、何の灯火かよくわからなかった。

 また、防衛省のこれまでの説明がいい加減だったことが分かりました。当初、事前に清徳丸を認識していたと発表したのは確証があったわけではなく、未確認の目標を認識していたに過ぎなかったのです。このことは、当初から指摘されてきましたが、この報道で確実となりました。この供述をそのまま発表すれば、海自はマスコミの袋だたきに合い、国民からの信頼を失うと、海自の幹部は深刻に考えたのでしょう。このために発表が迷走したのかも知れません。

 もう一つ、航海長の報告として表に出た情報自体が嘘である可能性、「あたご」側の説明自体が嘘である可能性を考えなければなりません。実態がもっと深刻であるために、嘘の報告をした可能性です。7、8隻いた漁船の内、2隻しか探知できなかったという話は信じがたいのです。そんなに海自のレーダーの性能は低いのでしょうか。考えたくないことですが、さらに情報が公開されるまでは保持すべき可能性です。

 仮に、この報道が本当だとした場合でも、海自の危機管理意識は低すぎるのではないかという懸念が別に出てきます。レーダー情報で漁船と推定できる反応があり、その数が変化したのなら、漁船は船団をくむ場合が多いという常識を働かせ、右舷前方に注意を集中するべきであったと考えられます。中には一匹狼の漁師もいるでしょうが、最悪の場合を常に想定すべきです。つまり、1隻かも知れないと考えるのではなく、もっといるのかも知れないと考えるべきだったのです。さらに、航跡が重なったという供述から、ずっと遠距離用のレンジで監視していたのではないかと疑ってしまいます。また、海保の捜査では、レーダーで漁船を追尾した形跡がなかったという点と矛盾している点も気になります。乗員がベストを尽くしても、この程度の航行しかできないのなら、海自艦はすべて欠陥品ということになってしまいます。

 以前から、海自では奇妙な事件が繰り返し起きてきました。今回の事件も徹底的に解明されないと納得いきません。

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