このサイトで何度も取り上げていますが、MRAP車は本来工兵部隊用の車両で、戦闘部隊では使いにくく、ハンヴィーは何度も改造を加えられているにも関わらずIEDに対して十分な対処が取れていません。そこで、ベーデノッチ車(Badenoch Vehicle)、またはウルトラAP(ULTRA Armored Patrol)と呼ばれる車両が構想されていると、military.comが報じました。この車の研究は2005年に公表されていて、spacemart.comに写真が載っています。
イラクで、米陸軍の車両はIEDに対して脆弱であることをさらけ出しました。そこで、米軍はハンヴィーの装甲を増強するキットを用いました。しかし、これは車重を増やし、燃費を約4mpgから約10mpgへと、さらに悪化させるのです。おまけに、サスペンションに設計以上の重量を与え、タイヤをパンクさせ、横転の危険を増し、その他の事故の原因となってきました。
ハンヴィーと置き換えるため、統合軽戦術車(Joint Light Tactical Vehicle)とMRAP車(Mine Resistant Ambush Protected Vehicle)が開発されてきましたが、どちらもハンヴィーよりも重いという問題がありました。ベーデノッチ車はもっと軽量で、これらの問題を完全に解決したといいます。
ベーデノッチ車は、装甲を増強したハンヴィーの半分以下の重量で、同じくらいの兵員を乗せられます。これは軽量の構造的な素材を使い、革新的な設計コンセプトにより達成されました。モーターと対向ピストン型エンジンのハイブリット方式で、戦闘時の燃費を50%、駐屯地内や平時の燃費を200%向上させました。
この車のコンセプトは、軽く、横転することを前提に設計された車体により、搭乗者の死傷を防止することにあるようです。遂に、IEDの攻撃を受けることを前提にした車両が実用化されようとしているわけです。
しかし、ベーデノッチ車の効用には疑問があると、私は考えます。まず、確かに、軽い車両は激しい爆発で横転した時、乗っている兵士に、それ自体の重量でダメージを与える危険を減らすでしょう。ハンヴィーから脱出する訓練をするためのシミュレータまで使っている米軍にとって、この問題は早く解決したい話です。しかし、どんな爆発にも耐えられるというわけにはいかないでしょう。特に、爆発で車両が飛ばされた時に、脊椎を損傷するケースは防げないと考えられます。現在、イラクでは、かつてのように砲弾を数発連結したようなIEDは使われなくなりました。それほど強力なIEDが減った現在、ベーデノッチ車はある程度の安全性を実現するかも知れません。また、自己鋳造弾のように、溶けた金属を目標に打ち込むタイプのIEDには耐えられるのかは不明です。この場合、焼夷効果が生じるので、搭乗員には非常に危険です。その辺の情報が欲しいところです。