グーグルアースは軍に脅威か?

2008.3.15



 グーグルアースヤフーマップ、その他の情報サービスは軍事にとって脅威だという記事をmilitary.comが報じました。

 米空軍のマイケル・ハメル中将(Lt. Gen. Michael Hamel)は、敵が秘かに、ほとんど無料で米軍や友軍の位置を知ることができることを警告しました。グーグルアースはすぐに軍事基地の写真を削除し、謝罪しました。ハメル中将はこうした会社に対して圧力をかけるべきだと主張しています。たとえば、衛星写真を供給する会社に、米軍が交戦している地域の映像については、解像度を落としたり、敵が最新の情報を手に入れられないように映像の提供を遅らせるように圧力をかけています。また、フォート・サン・ヒューストンの写真を撮ったグーグルの写真チームは軍事基地から立ち入り禁止の処分を受けたといいます。

 この話はちょっと変な印象があります。グーグルアースの画像データは数年前のものが使用されていると聞いており、現在進行中の戦争を実況中継するようなことはありません。イラク戦争のように長期化した戦争や、常駐の基地はかなり精密に分析できるでしょうが、多くの戦争は比較的短期間で終わります。

 こうした問題はしばしば、軍人の側から主張されます。第二次世界大戦で、ドイツ軍は観光マップを使って作戦計画を立てたといいます。これは現在も変わっていないでしょう。観光マップには「徒歩で何分」といった情報も載っています。また、日本の地図は海外の地図に比べると精密すぎて困ると、元自衛隊陸将補の松村劭氏は著書に書いています。これは地図が敵に作戦立案に必要な情報を与えてしまうという懸念です。確かに、軍事と地図は切り離せない密接な関係を持っています。自分の経験でも、武力紛争を考える場合、地図が必要なかったことはほとんどありません。

 グーグルアースには無料版の低解像度版のほか、年間利用料が20ドルのグーグルアース・プラスと400ドルのグーグルアース・プロがあり、400ドルの場合、高解像度の写真が手に入ります。グーグルのサイトに載っている写真を見ると、確かにかなりの精度です。ただ、自分の経験では、軍事問題を考える際、グーグルアースの無料版を使ったという記憶はありません。400ドルの情報が古いと聞いていることと、地図の方が便利なことが多いためです。もちろん、グーグルには地図をオーバーラップさせる方法もありますが、地図の方が状況を把握しやすいと感じます。以前、グーグルアースで38度線を少し眺めてみたことがありますが、縮尺を上下して地域を把握するのはかなりの手間で、38度線全体を分析するのは個人的な作業としてはほとんど不可能と感じました。

 軍事用の地図は、歩兵や車両が通過できるかどうかが分かるような情報も書き込まれています。自衛隊の場合、国内に関しては常に調査を行い、渡河が可能な場所、不可能な場所が分かるほどの内容と、陸自の中堅幹部の方から聞かされています。もちろん詳細については一切教えてもらえません。それほどの情報がグーグルアースから直接得られるわけではなく、専門家が写真を見て分析することを考えると、従来の地図とさほど変わらないようにも感じるのです。もちろん、テロ組織がグーグルをどのように活用するかは分かりません。しかし、それが大きな成果をあげたという実例はまだ分かっていないのではないでしょうか。今回の記事は、米軍が神経過敏になっているように感じますし、地形の情報が公になることで、逆に戦争がやりにくくなり、紛争の防止にもつながるという微かな期待を色あせさせるという印象を持ちました。

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