イラク開戦5周年に関する報道が続いています。ブッシュ大統領の演説、アブグレイブ刑務所虐待事件で名前が知られたリンディー・イングランド元上等兵のインタビュー記事など、すでに忘れかけているイラクとの開戦と、その後に起きた出来事を思い出させる報道がここ数日の主流となっています。
そんな中で、space-war.comが駐イラク米軍の実状を報じています。
マイケル・マレン海軍大将(Admiral Michael Mullen)が先月、議会の公聴会で「みんな、疲れている」と発言したことを、記事はまず掲げています。
そして、記事はイラク戦が「米国史の中で三番目に長い戦争」だと書いています。後のふたつは独立戦争とベトナム戦争です。確かに、その通りです。すでに、アメリカは最も長い戦争を戦っていて、その勝利は糸口すら見えていません。共和党の大統領候補ジョン・マケイン上院議員は、この戦争をテロを殲滅するまで続けると主張しています。民主党の大統領候補者はどちらも、イラクからの撤退を主張するだけで、包括的な中東問題の解決については、あまり語ろうとしません。古来より、長期戦はうまくいかないものだと言われています。石破茂国防大臣は、この戦争を百年戦争になぞらえていますが、この戦争は断続的に行われたもので、歴史家によってはひとつの戦争とみなさない人もおり、イラク戦争と同列には論じられません。誰もが、戦争における考察を避けているように思われます。
すでに、多くの兵士が3〜4回目の派遣を経験しています。派遣期間の延長もあり、米軍が以前より弱くなったと、この記事は説きます。長い記事なので、様々な情報が書き込まれていますが、最も興味深いのは文末の統計です。
3,437人の少佐以上の現役及び退役将校を対象とした調査で、60%が現在の米軍は5年前よりも弱くなったと考えていることが分かりました。さらに、88%が戦争が「危険なまでに薄く」引き延ばされていると答えています。
まったくその通りです。軍人たちはよく分かっているのです。イラクだけでもきめ細かく警備するのは、米軍すべてを使っても無理です。アフガニスタンも含めると、それはまったく不可能です。さらに、アフリカ諸国、パキスタンなど、アルカイダが活動している地域があるわけですから、すでに米軍は手に負えない戦争に突入しているといえます。しかも、対テロ戦用の装備など、そもそも有効なものがないことは歴史が示しています。米軍は正規戦を戦うための技術では世界一ですが、テロリストを見つけ出すための装備品は持っていません。
イラク戦の5年間を考える時、私は911テロ事件をテレビで見た時の衝撃を思い出します。あの時はテロ事件の犠牲者を心から気の毒だと思いました。しかし、米軍がイラクに侵攻してからは、イラク人を気の毒だと考えるようになりました。もちろん、それよりも早くに始まったアフガニスタンでの誤爆、誤射によるアフガン人の被害も同様です。
もはや、元に戻ることはできません。イラクから撤退するだけでなく、パレスチナ問題も含めて、すべての中東問題を解決する方向へ舵を切り、穏健なイスラム教徒を味方につけ、過激派が生まれる余地を減らすことくらいしか、手はないように思われます。兵法は万能薬ではありません。限界もあることを、最初に理解しなければならないのです。