脱走兵情報を日米で共有の見込み

2008.4.11



 今朝、横須賀でのタクシー運転手殺害事件を受け、政府と米軍が、脱走兵に関する情報を共有する方向で調整しているという報道がありました。米軍から兵士が脱走したら、日本政府に通知することになるというのです。

 ちょっと引っかかったのは、「脱走兵」をどういう区分でくくるかです。日本には脱走兵というひとつの罪名しか言葉がありませんが、米軍は「脱走(Desertion)」と「無許可離隊(Absent Without Official Leave: AWOL)」の2種類があり、それぞれ意味が違います。脱走は、二度と軍隊に戻らないという決意があった場合に成立します。軍隊が嫌になって逃げたけども、連れ戻されたら、また勤務するという意志があれば、同じ脱走でも無許可離隊に問われます。イラクには二度と行きたくないと思っていたところに、再派遣の命令が出たために脱走した場合は、脱走罪に問われます。それぞれ、裁判手続きや罪科が異なるので、別物と認識しなければなりません。おそらく、米軍から政府には説明がされていると思うので、この点は問題にはならないでしょう…と思いたいところです。

 ところで、AWOLを30日間続けると脱走に問われるという説明をよく見かけますが、これは誤りです。30日を越えて離隊していても、自発的に戻ったり、戻る意志を信頼できる程度に示した場合は、AWOLとみなされます。30日以内であっても、帰隊しないという意志を明白に示せば脱走罪に問われます。意外にも、1965年にチャールズ・ジェンキンス氏が北朝鮮へ亡命した際、母親に宛てた「北朝鮮へ行く」と書かれた手紙が発見されたり、北朝鮮がジェンキンス氏が亡命したと発表しても、米軍はしばらくはAWOLとして扱いました。米軍は、このような場合、本人の意志が明瞭に確認されたとは言えないと考えるのです。ジェンキンス氏は結局、脱走罪などの罪に問われましたが、それまでにはかなりの時間が必要でした。それは、脱走罪で起訴し、有罪にするには、脱走兵の「二度と戻らない意志」を米軍が立証する必要があるからです。そのため、必然的に慎重になるのです。

 こうした事情が、今回の日米の取り組みで問題にならないかが気になります。報道では、米軍がどの時点で脱走(またはAWOL)と判断し、日本政府に通知するのかが分かりませんでした。米軍が脱走兵をAWOLで起訴するのは、通常の場合、該当者がいないと確認されてから30日後です。1ヶ月経ってから通知するのでは、日本側の納得を得ることはできないでしょう。現実に事件が起きた時にはなおさらです。マスコミには、この辺がどう決まったのかを是非とも報じて欲しいと思います。

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