米軍の容疑者隠蔽がさらに露見

2008.6.19



 military.comによると、米軍はテロ容疑者の居場所を隠し、国際赤十字委員会(ICRC)の監視を避けるために、拷問などの措置を隠していたことが米上院委員会が公開した書面で明らかになりました。

 アフガニスタンのバグラム空軍基地(Bagram Air Base)では、テロ容疑者を「落とす」ために、睡眠遮断がラムズフェルド長官が承認する前から用いられていました。拘束されているテロ容疑者はICRCの監視を受けないように定期的に移動させられていました。

 時間がないので他の記述は省略します。この報道の問題点が分からない人がいるかも知れませんので、ポイントを説明します。アメリカは対テロ戦争の初期の段階では、テロ容疑者を戦時捕虜としてあつかうべきかどうか明確な考えを持っていませんでした。彼らは正規兵とは言い難く、それどころか従来のゲリラ戦士の概念からも少し外れた存在でした。そもそも、アルカイダと言ったところで、ひとつの組織ではなく、それぞれの組織が異なる性質を持っているので、一括りにはできなかったのです。

 そこで、アメリカはテロ容疑者を立場不明のまま拘留しました。そこで問題になるのが、彼らの扱いです。軍のフィールドマニュアルに書かれている捕虜取扱規則は無視してよいとしても、代わりになる規範がありませんでした。その上、本土を攻撃されて頭に来ているアメリカ人にとって、テロ容疑者を拷問して情報を聞き出すことは「必要悪」であるという考えが成り立ちました。テロ容疑者を切り刻もうが、殺そうが、自分たちの勝手だというわけです。

 しかし、この考え方はすでに許されないものでした。ジュネーブ条約は軍隊だけでなく、民兵や義勇隊のメンバーも捕虜としてあつかうと定めており、これを定義した第3条約にはアメリカも加入しているからです。米軍にとっても、存在しない規則を守ることはできず、現場には混乱が生まれました。即席で規則を作っても、個人により解釈の差があり、長年調整されて完成度の高い既存の規則のようにはいきません。アブグレイブ刑務所でのスキャンダルが生まれたのは、そういうわけです。

 どこを間違ったのかは分かりませんが、日本では「軍服を着ていないゲリラは捕虜の待遇を受けられない」という話が横行していて、時に政治家までがそんな話を主張します。しかし、そのような乱暴な話は許されないのです。赤十字社の視察を認めないのも違法ですし、裁判にもかけずに延々と拘束を続けるのも、拷問を行うことも認められていません。今回の報道は、アメリカが国際法を無視し続けていることを証明立てるものです。対テロ戦争に従来のジュネーブ法では対処できないというのなら、アメリカはそれを国際社会に提案し、改正を求めなければなりません。しかし、スキャンダル事件になってしまったために、アメリカはそれすらできないのです。アメリカは、その後始末を渋々やっているところなのです。

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