ヨーロッパのMD計画が遅延の見込み

2008.6.24



 ミサイル防衛がやはり危ういものであることを示す記事が報じられました。military.comによると、迎撃ミサイルのテストが不十分なために、ヨーロッパへの配備は2013年の目標よりも遅れる見込みです。この懸念は昨年10月に米国防総省の報告書で取り上げられていましたが、今回、そのコピーをAP通信が入手したのです。

 問題は、すでにテストに成功しているアメリカに配備されるミサイル防衛システムはヨーロッパに配備するシステムに適用できないことにあります。アメリカに配備する迎撃ミサイルは3段式ロケットですが、欧州に配備する迎撃ミサイルは2段式です。欧州用のシステムが機能するかどうかをクリアするためには、少なくとも3回のテストが必要です。このテストは2010年末までに完了される予定ですが、記事はこの種のテストは遅延することが多いと書いています。

 この記事でも触れていますが、問題は他にもあります。それは、spacewar.comでより詳しく解説されています。

 チェコのミレク・トポラーネク首相(Prime Minister Mirek Topolanek)が、現内閣が秋に倒れるかも知れないと言っています。ミサイル防衛のためにチェコに配備する予定の高周波レーダーに関して、議会の支持も失いました。この件では国内で反対が多く、世論調査ではチェコ国民の68%がレーダーの配備に反対しています。さらに、ポーランドからは迎撃ミサイル基地の配備に対して、アメリカは200億ドルの支払いを求められています。ポーランドはその金を軍隊を改革し、ロシアの脅威に備えるつもりで、特にPAC-3 に関心を示しています。米下院はヨーロッパにおけるミサイル防衛の2008〜2009会計年度の予算を7億2,000万ドルまで減額しました。チェコとポーランドの基地配備に関する予算は、2億3,200万ドルまで引き下げられました。このため、金額の点で交渉が行き詰まっています。

 高性能の3段式迎撃ミサイルを国外に出したくないために、配備がさらに遅れるという話です。東ヨーロッパへのミサイル配備は、イランがヨーロッパに向けて弾道ミサイルを発射した場合に備えるものです。しかし、ロシアの弾道ミサイルの防衛も可能であるため、ロシアは不快感を示しています。しかし、この迎撃ミサイルGBIは迎撃テストでも十分な成果を収められていません。おまけに、実戦配備の目処も立っていない現状では、戦力として脅威にはなりません。しかし、ロシアにとっては、その存在自体が困るのです。実際に、迎撃ミサイルが使われる可能性は低いので、アメリカが迎撃ミサイルの完成度を宣言するだけで、ロシアのミサイル防衛の信頼性を傷つけられます。ロシアにはそれを証明する方法もないわけで、その存在自体が邪魔だというわけです。


 

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