イラク戦争を批判したオドム中将が死去

2008.6.5



 イラク侵攻を批判し続けたウィリアム・E・オドム退役陸軍中将(Retired Army Lt. Gen. William E. Odom)が自宅で亡くなったと、military.comが報じました。オドム中将は75歳で、死因は心臓発作と見られています。

 オドム中将は、カーター政権ではズビグニュー・ブレジンスキー国家安全保障担当大統領補佐官のアシスタント、レーガン政権では国家安全保障局の長官を務めました。ブレジンスキー氏によれば、オドム中将は「おそらく最初にイラク戦争に反対した軍高官」です。

 あらためてオドム中将の言動を探してみると、厳しい批判を繰り返していたことが分かります。

 2004年5月のデモクラシー・ナウでの対談では、イラク侵攻はイラクにおけるアメリカの利益のためにならず、むしろ、オサマ・ビン・ラディンやイランの利益にかなうと述べています。兵数の少なさにも触れ、第2次世界大戦時のドイツにおいて、ドイツ人住民20人に対して米軍や連合軍の兵士が1人配備されました。イラクでは100人や60人に1人の割合だと批判します。ファルージャの市街戦は無用だったと断じてもいます。

 2007年2月にはワシントン・ポストに「勝利は選択肢ではない」という一文を書いています。この中で、オドム中将は冷静な戦略論を展開しており、私の見解と合致する部分が多くあるのに驚かされました。新しい国家情報評価(NIE)を読んだ上で書かれた、この論文はイラク侵略の失敗を断定しています。そして、勝利に固執しがちなアメリカ人に向けて、即時撤退が最善の選択肢だと説いています。しかし残念ながら、2008年の大統領選挙を待たずに撤退すべきだという主張はすでに実現できそうにありません。

 2007年4月には「最高指揮官は(イラク戦争から)AWOL、無許可離隊をしたようだ」とユナイテッド・プレス・インターナショナルのインタビューで述べています。この発言が、ブッシュ大統領がイラク政策に真剣に取り組まなくなったことを批判しているのは当然ですが、ブッシュが州軍時代の無許可離隊疑惑を引っかけている点に気がつかなくてはなりません。元将軍から大統領への痛烈なパンチと言えます。ブッシュが真珠湾などを国定史跡に指定する指示を出したことを、中将がどう思ったのかを聞きたい気がします。

 オドム中将みたいな古狸を大事にして、懐刀として使った方が国は安泰だということです。ブッシュ政権では政治家が好みの軍人を選び、彼らの意見を進んで採用しました。その結果が現状です。このことは絶対に忘れてはいけないと思います。

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