military.comによれば、駐米イラク大使サミル・スマイダイエ(Ambassador Samir Sumaida'ie)が、アルカイダの戦士はイラクを去り、母国に戻ったか、戦うためにアフガニスタンに移動したと述べました。
スマイダイエ大使によれば、アルカイダは、2006年と2007年にアンバル州の主要なスンニ部族が反旗を翻したため、イラクで活動するのが難しくなってきたと認識しはじめました。これは、先週、デビッド・ペトラエス大将(Gen. David Petraeus)が述べた認識の繰り返しだと、記事は書いています。
これについて、匿名を希望したアメリカの対テロ担当高官は、アルカイダはイラクから去ってはいないけども、新しく徴用した戦士をイラクではなく、アフガンとパキスタンに送っていると主張しています。しかし、そうした者たちの数は少数です。イラクのアルカイダは大半がイラク人で、アフガンとパキスタンの過激主義者はほとんどがパシュトゥーン人です。パシュトゥーン人は、アフガニスタン東部からパキスタン西部にかけて住んでいる民族です。記事は、スマイダイエ大使の「イラクの問題が打破されても、彼らは戻ってくる力を持っている」という言葉で締めくくられています。
イラクのアルカイダが減ったことを、誰も否定しなくなりました。しかし、その実体については意見の相違があるようです。アルカイダがイラクからアフガンへ移動したのか。移動はしていないけど、新兵がアフガンへ送られているのか。このいずれかを見極めることは、アルカイダの考え方を知る上で重要です。しかし、その判断はとてもむずかしく、一般人には得られそうにはありません。
アルカイダ戦士がイラクから移動していないのなら、イラクのテロ事件が減ったのは、アルカイダ戦士が逮捕されたり戦死したりして減ったのか、自発的にテロ行為を止めたのかのいずれかです。前者なら、後を引き継ぐ者が出てこない限りは、テロ組織を弱体化させたことになりますが、後者の場合は活動を止めた戦士が再びテロを再開する可能性があります。それでも、両者には多少の違いはありますが、現時点を見る限りは、米軍の成果だということができます。アルカイダ戦士が移動したのなら、アルカイダが独自に戦略転換していることになり、これは米軍にとっては失点となります。だから、いずれが正しい情報なのかが分かると、情勢分析のために有効なのです。
また、地元の戦士が多いことが明らかになったのも重要です。もともと、「国際テロ組織」という言葉は実態をよく表してはいません。子供向けのマンガやスパイ映画ならともかくも、世界征服を狙う秘密組織を暗示する用語は不適切なのです。戦闘組織として完全にひとつになれるのは、精々、国家から地域(数カ国の国家で構成)までで、国際的な組織が作れた試しはありません。旧ソ連や中国などの共産主義国は、共産主義による世界制覇を掲げたものの、実際には国家レベルで戦略を決めており、国際共産主義は幻想に終わりました。アルカイダの実態が、一部の外国人戦士と大多数の地元民ならば、問題は少し簡単になります。
外国人戦士のことを心配する必要がさほどないのなら、地元民を懐柔することでテロ組織が居づらくできるかも知れません。テロ組織と手を切ることを条件に、トライバルエリアの住人に経済的な支援をするという取引が実現できれば、これ以上の戦略はありません。その代わり、この取引にはそれ以外の条件は一切付けないという前提が必要です。そうしないと住民は間接的な侵略だと警戒しますし、アルカイダに宣伝材料として使われるだけです。また、この方法には支援物資がアルカイダに流れるという危険もあります。
しかし、アフガンに米軍を再配置するにしても、約2万7千平方kmのトライバルエリアを完全に包囲することはできません。なにより、この地域はパキスタンに接しており、武装勢力がパキスタン軍と通じていることから、完全な包囲は不可能なのです。好きでテロ行為を行っているわけではない者も大勢います。この地域は、農作物が不作だと、大麻を栽培するか、武装勢力になるしかない環境なのです。こうした人びとを取り込むべきなのです。
この戦略転換が有効かは、イラクのテロ事件が減った理由を正確に分析する必要があります。米軍が行った職業訓練プログラムが武装勢力になる者を減らしたのなら、おそらく、アフガンでも有効です。
この方法が成功することは、対テロ戦争にパラダイムシフトを起こす可能性があります。武力による弾圧ではなく、経済的な問題を解決することでテロを根絶できるのなら、他の貧困地域でも応用できるからです。
次期大統領がこの戦略を用いるかどうかが気にかかります。しかし、バラック・オバマ氏がドイツで負傷兵を見舞うのを中止したのに対して、ジョン・マケイン氏が批判をした、とmilitary.comが報じています。こんなどうでもよいことで批判ごっこをする暇があったら、取るべき戦略を検討して欲しい。そうすれば負傷兵を生む戦争を止められるかも知れないのです。