ANNのスクープで、米陸軍の飯柴智亮大尉が陸上自衛隊の特殊作戦群の要望で軍用ライフル用の照準器60個を米政府の許可なしに輸出した事件で、事件発覚後、飯柴大尉が陸上自衛隊幕僚監部から「陸上自衛隊がかかわっていたことは伏せてほしい」と口止めされたことが明らかになりました。
ニュースでは照準器の製品名を言いませんでしたが、army-times.comに、この事件の記事が載っており、それに「EoTech 553」であると書かれていました。EoTech社は2005年に軍需産業会社L-3 Communicationsに買収された会社です。「553」は市街戦用のオプチカル(光学式)照準器で、価格は639ドルです。元々、小銃についている照準器と違って、円形の視野の真ん中にホログラフのドットが見える仕掛けなので、照準器自体が目標の一部を見えなくすることがありません。暗視装置もついており、米軍で好んで使用されている装備品です。
海外に送るには、輸出許可書が必要なのに、申請しなかったことが問題とされました。この他にも、望遠照準器と銃器部品も輸出しようとしたことが起訴理由となっています。その中には、エアソフトガン用に改造された上部レシーバが含まれていたということです。これが何なのか、私は知りませんが、想像できるのは、本物の小銃の上部レシーバとそっくり交換して、エアソフトガンにする部品です。最近、陸自が戦闘訓練にエアソフトガンを利用しているという記事を読んだ記憶があります。陸自には光線式の命中判定システムがありますが、命中判定に納得がいかないことがあり、エアソフトガンの方が便利な場合があるらしいのです。しかし、こうした改造が可能な小銃を陸自が装備しているのかという疑問も浮かびます。
こうした事件は銃器を取り扱う商売をしている人なら、絶対にしないことです。繁盛している業者は申請に必要な書類を書くのに忙殺されており、書類なしに送れるとは考えもしません。M4小銃のマニュアルを書いた経験のある飯柴大尉が、そうした規則を知らなかったのだとすれば、不注意だとしか言いようがありません。また、友軍である自衛隊の正式な依頼ならば、米軍のルートで送ることも可能だったはずです。一般のルートを使ったのは、非公式な依頼だったためでしょう。
飯柴大尉は報酬は受け取っていないと主張しているようですが、実費分も受け取っていないというのでしょうか。米軍大尉のサラリーで、38,000ドルあまりの代金と送料を、すべて自分で負担できるとは考えられません。なんらかの形で実費分は支払われたと考えるのが自然です。自衛隊が装備品を米軍の軍人から購入するはずはなく、陸自隊員が個人的に支払ったはずです。それなら、米軍ルートで輸送されなかったことの説明がつきます。
こんな不透明なやり取りの過程で、誰も問題に気がつかなかったのは信じがたいことです。隊員が個人的に買うにしても、輸入業者を通せば、何の問題もないはずです。
それから、この照準器は拳銃に取りつけられるようにはできていないようです。拳銃の銃身、機関部体、回転弾倉又はスライドは拳銃の部品とされ、輸入が禁じられています。照準器はこの中に含まれないはずです。今回、輸入したのは拳銃の部品ではありませんでした。しかし、注意しないと、陸自から逮捕者を出しかねませんでした。
この事件は、通常の方法では発注できない物品を、隊員が自腹で購入しようとしたのが真相かも知れません。しかし、趣味のサバイバルゲーム用にまとめて購入したという話だったら最悪です。
飯柴大尉は日本の銃砲雑誌などではよく知られた存在です。私は銃器雑誌は立ち読みしかしないのですが、たまに彼の顔が載っているのを見ることがあります。引用した記事で、彼がコナミ社のゲーム「メタルギアソリッド」の銃器アドバイザーを務めていたことをはじめて知りました。日本のガンマニアのみなさんにとっては、ヒーロー的存在…ということのようです。オタクたちにとっては、ショッキングな事件だと思います。
しかし、そんなことはどうでもよいことです。防衛省がこの事件にどう対応するのかに注目します。