小銃部品不正輸出事件の問題点

2008.7.30
2008.8.1 修正



 小銃部品の不正輸出事件について、状況がある程度分かってきました。ひと言で言えば「形式犯」であり、イラン・コントラ事件のような重大事件でないことは明らかです。

 army-times.comによれば、飯柴大尉はすでに司法取引により、税関申告で虚偽の申告をしたことを認めました。別の荷物に見せかけることで、大尉が通関手続きを簡単にしようとしたことは間違いがないようです。

 今後、明らかにされて欲しいポイントは以下のとおりです。

  • 発注元は陸自なのか、陸自隊員個人(複数)なのか。
  • 陸自が発注したとすれば、なぜ装備品を個人に対して発注したのか。防衛省で個人に対する発注は日常的に行われているのか。

 大尉への求刑は、最高で禁固5年と25万ドルの罰金です。しかし、連邦検察官は、大尉の行為は「治安やアメリカの外交上の利益を脅かそうとしたものではない」と認めています。検察が、ごく軽い刑で済ませる考えなのは明らかです。軍事法廷ではない一般の法廷なので、陸軍から処罰を受けるわけではありませんが、一般の法廷で一定の刑罰を受けた場合、何らかの処分が行われるかも知れません。検察はそれは回避したいと考えるはずです。よって、それに該当しない刑罰に調整しようとするでしょう。

 大尉はすでに法廷で有罪を認めたので審理公判は行われません。裁判官の心証としては、部品を送った先が他ならぬアメリカの友軍・自衛隊であり、訓練で使用するものであることから、これを損ねる恐れはないでしょう。熱心さ故の勇み足とみなされるはずです。気になるのは申告の方法だけです。荷物の内容を隠蔽しようとしたことは問題視されるでしょう。飯柴大尉の弁護士は、こうした点を注意しながら裁判に挑むことになります。

 確認された部分に限って、問題点をもう一度考えてみます。

 飯柴大尉のミスは、該当製品が輸出規制がかけられた品物だと気がつかなかったことです。仕事で武器を扱うことが多いと、この種の法律に対する認識が薄くなる危険があります。EOTechのウェブサイトには、すべてのページの一番下に小さいながらも注意事項が書かれています。これに気がつきさえすれば、事件にはなりませんでした。

ホログラフィック・ウェポン・サイト、モデル553、557、555は米国武器国際輸送規制の統制下にあり、米国国務省の正式な認可なしに輸出することはできません。
The Holographic Weapon Sight Models 553, 557 and 555 are controlled under U.S. International Traffic in Arms Regulations (ITAR) and may not be exported without proper authorization by the U.S. Department of State.

 特殊作戦群のミスは、飯柴大尉に輸出規制品だということを事前に説明しなかったことです。おまけに、口止め工作までしたのは情けない限りです。検察に対する説明の中で、大尉が陸自の関与に触れないわけにはいかないことくらい、陸自は察して当然です。陸自隊員が個人的に購入するためだった場合、大尉の責任は急に大きなものになります。それを回避するためには、特殊作戦群からの依頼であったことを隠すわけにはいきません。口止めは、飯柴大尉に対する陸上自衛隊の裏切り行為です。飯柴大尉としては、切り捨てられるのを避けるために、暴露戦術に出たわけです。外部の協力者をこうも簡単に切り捨てるのだとすれば、陸自はまったく信頼できず、まして有事の際に国民の協力は得られず、レジスタンスとの共闘は不可能ということになります。

 もう一点、昨日は問題はないと思ったのですが、BB弾を撃てるようにした小銃の上部レシーバーは、場合によっては、日本の銃刀法に抵触するかも知れません。日本国内で製造したエアソフトガンは法の範囲内で製造されていますが、アメリカで製造されるエアソフトガンの安全基準は日本のとは違います。だから、銃身と機関部が頑丈で、銃砲とみなされるほど強力なBB弾を発射できると、上部レシーバーが違法な品物とみなされる可能性は否定できません。銃身と機関部は、銃砲の中心をなす部品です。パイプを改造した銃を作って逮捕された人がいることを考えると、精巧に出来ている上部レシーバーが、銃砲とみなされる可能性は十分にあります。自衛隊が銃刀法違反に問われる恐れは考えておくべきです。この場合、飯柴大尉の側には特に法的な問題は生じないでしょう。

 今回の事件は、特殊作戦群が国務省の許可を受けて輸入する手間を省こうとしたことに原因があるのかも知れません。そうだとすれば、大尉から送ってもらうことに問題があることも、最初から認識していたことになるのですが、事件の経緯に関する情報はまだ不十分です。だから、防衛省には十分な調査結果を公表することを期待します。

 余談ですが、私は、飯柴大尉が日本の銃砲・ミリタリー雑誌に顔を出すのは、あまり好ましいことではないと考えています。ガンマニアやサバイバルゲームの愛好家(軍事オタクも含めます)には、まともな人もいますが、変な奴もいっぱいいます。この種の雑誌の投稿を見ても、それは見て取れます。だから、私はこれらの人たちとは付き合う気になれません。この分野の掲示板をいくつか見て回りましたが、状況をよく理解しないままに、大尉の悪口、批判の域にも達しない罵詈雑言、を書き込んでいる者が何人もいました。飯柴大尉が逮捕されたと誤解している人すらいました。こういう人たち相手に、銃の知識を普及することに意味があるとは思えません。


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