グルジア紛争におけるロシアの真意

2008.8.12
2008.8.14 修正



 military.comがグルジア共和国の第2の紛争地域、アブハジア自治共和国が、北コドリ峡谷(the upper Kodori Valley)や戦闘地域から、グルジアの兵士と住民の退去を命じたと報じました。
 
 アブハジア自治共和国のロシア国境地域は同国軍によって占領されています。ロシア軍も兵士9,000人、車両350 台をこの地域に投入しました。国連グルジア監視団もすでに撤退しました。

 ロシア軍は南オセチア以外の場所にも攻撃を加えていますが、まもなく作戦を終了するという情報も出てきています。レフリーがいる格闘技と違い、戦争では一方が停戦を宣言しても、相手は直ちに戦闘を止めません。

  1. 相手が口だけで実際に撤退をしていない
  2. こちらの追撃が完了していない
  3. 戦術的に防衛が難しい地域で停戦を迎えたくない
  4. これを機に地域を占有したい
  5. 戦後交渉を有利に進めたい

 色々な理由で戦闘はすぐには終わらないものです。日本のマスコミは、朝鮮戦争の場合を引用し、(5)の戦後交渉を有利にするためだと報じがちです。今回の武力介入では(3)と(4)が主な理由だと考えられます。下の地図は、この地域のパイプラインのルートを示しています。南オセチアにはロシアのパイプラインが走っており、近くにはトルコに抜けるパイプラインも通っています。

地図は右クリックで拡大できます。


 戦闘の詳細が不明なので、具体的には説明できませんが、ロシア軍の攻撃は小勢のグルジア軍に対して一切の手を抜かない熾烈さを感じさせます。これはロシア軍の戦い方から見て納得がいくことです。可能なら圧倒的な兵力で敵を制圧し、敵の反撃を不可能にするのがロシア軍の考え方です。

 グルジア軍の兵数は僅かです。陸軍が17,767人、海軍が495人、空軍が1,310人、戦闘機が7機、ヘリコプター3機。これでロシア軍と戦うのは無理というものです。グルジア軍が撤退したのは反撃する準備のためという報道もありますが、この兵数から考えると、反撃ほとんど無理です。

 おまけに、南オセチアの北にある北オセチアはロシア領土内です。ロシアにすれば、南北オセチア統一、民族自決という錦の御旗で国際社会を黙らせ、黒海とカスピ海の間にあるパイプラインに睨みをきかせられます。日本を初め世界各地へ出荷される天然資源に対して影響力を与え、自国の天然資源の価値を高めることができるわけです。ニュース映像を見ても、ロシア軍に手を振って喜びを示す南オセチア住人の姿が確認できない点が気になります。ロシア軍は民族浄化の危険があったと言いますが、具体的な証拠はまだ見せてもらっていません。今回の武力介入は国連平和維持軍の増派という形を取りました。このように、国連の制度を逆手に使うこともできる点を、我々は注意しなければなりません。

 アメリカはロシアの意図をできるだけ挫きたいと考えます。すでに、イラクに派遣されているグルジア兵2,000人を米軍機で帰国させているという報道がありました。毎度のことですが、アメリカがグルジアに南オセチア攻勢を承認したという話が出てきました。私はそれはないだろうと思います。今現在、グルジアにそんな約束をしても、アメリカには大した支援はできないからです。


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