北朝鮮が新しいロケット発射施設を建設中

2008.9.12



 民間シンクタンク「GlobalSecurity.org」のジョン・パイク氏が、北朝鮮が新しい発射施設を建設中だと発表しました。別のニュースでは、ジェーンズ・インフォメーショングループの専門家、ジョセフ・ベルムデス氏が同じ施設を確認したと報じています。

 国内メディアは事実だけをポンと報じましたが、素人にはなんだか分からない話です。心配だから、とりあえず自民党にミサイル防衛をもっと推進してくださいと頼みたくなる人がいるかも知れません。しかし、ここはこの情報をよく調べてみるべきです。

 まず、施設の名前が必要です。ベルムデス氏によって、この基地は「トンチャンドン(東倉洞)発射基地」と命名されました。ここでもこの名前を使います。

 トンチャンドン発射基地は舞水端里のとは違い、発射台が日本やアメリカと同じ移動式です。テポドン2号を打ち上げた舞水端里(ムスダンリ)の発射台タワーの上部にはクレーンがあり、最終的な組み立てを発射台で行う仕組みでした。通常は、最終組立工場でロケットを垂直な状態で組み立て、移動式の発射台に載せて打ち上げ位置まで運ぶものですが、舞水端里にはそうした施設はありませんでした。そのため、組み立て工程が気象条件に左右されるという問題がありました。

 この発射基地の衛星写真を見ようと、「中国国境から50km」「海岸付近」というBBCニュースの情報を頼りに「Google Earth」で調べたら、あっという間に見つかりました。kmzファイルをダウンロードすれば、直ぐに見られます(kmzファイルのダウンロードはこちら)。緯度と経度は以下のとおりです。

  39°39'35.89"N
 124°42'18.96"E


写真は右クリックで拡大できます。


 発射場から南東方向1kmのところにロケットモーターのテスト用施設らしいものが見えます。発射場の北西約850mの山の上に、新しく造った道路と建物を建てるらしい土地が見えます。おそらく、ここに管制施設が建つのでしょう。ロケットモーターのテスト用施設へ向かう道、発射場の北に建物と農地が見えますが、これは農村です。おそらく、最も近くにあるという村「トンチャンドン」でしょう。普通の国は、ロケット基地はあらゆる施設から遠い場所に建設しますが、北朝鮮ではそうではありません。舞水端里でも、直ぐ近くに人家があるのが確認できます。これが北朝鮮の感覚なのです。

 この基地からロケットを真東に発射すると、間違いなく東側の村の上空を通過します。そして、一端海上に出た後、再び陸地の上空を通過します。その後、平壌の北約80kmの上空を上昇していく形になります。実は、2月と8月にイランが打ち上げに失敗したサフィール−エ・オミッドは、テポドン2号に非常に近いか同型であるという見解がGlobalSecurityのチャールズ・ビック氏から出ています。そのテポドン2号は低高度で墜落し、今年2回行われたサフィールの打ち上げはいずれも失敗に終わりました。トンチャンドン発射基地からロケットを真東に打ち上げた場合、墜落して何らかの被害が出る可能性は、舞水端里の場合に比べると数段高いのです。しかも、この付近の海は朝鮮半島特有の巨大な干潟です。こんな浅瀬に液体式ロケットが墜落したら、燃料が流出して大規模な汚染が起こります。北朝鮮のロケットに自爆装置が付けられていないことを考えると、その被害は我々の想像を超えるでしょう。

 そこで考えられるのは、ここで打ち上げるロケットは南に向けて発射されるということです。西海と東シナ海の上空を通過するルートを使うのです。ただし、技術的にはロケットのコースと赤道がなす角度「軌道傾斜角」が大きくなるため、静止衛星を打ち上げる場合、コースの修正に大きなエネルギーがかかるという問題があります。でも、極軌道衛星を打ち上げるには有利な位置にあります。舞水端里からだと、高度がまだ低い内に、韓国の上空を通過するという問題があります。地球観測衛星や偵察衛星の打ち上げに向いていることになります。

 前から主張していますが、テポドン2号は軍事ミサイルにはなり得ません。発射位置を変更できない上に、発射準備に時間がかかりすぎるからです。かつて石破茂氏が述べたように、北朝鮮が「東京を火の海にする」と声明を出してテポドン2号の発射準備を始めれば、アメリカが日米安保条約を発動する要件を満たします。巡航ミサイルでテポドン2号は簡単に破壊できるのです。北朝鮮がロケット技術を蓄積しているのは脅威ですが、テポドン2号やトンチャンドン発射基地は脅威ではないのです。


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