国籍不明潜水艦の領海侵犯事件

2008.9.15



 国籍不明の潜水艦を海上自衛隊が発見するという事件が起こりました。防衛省によると、14日午前6時56分、イージス艦「あたご」が1km先に潜水艦の潜望鏡らしい物体を視認し、ソナーで追跡したものの、8時39分に見失ったということです。

 1km先の艦船を1時間44分追跡して、艦船の特定ができなかったという話です。7時過ぎに領海外に出たということですから、少なくとも4分間以上は追跡できたことになり、その後に失探したのです。

 防衛省幹部によれば、「現時点で国籍を判断する材料はない」ということですが、非常に引っかかる話です。1km先という近い距離で、パッシブソナー(海中の音をマイクで聞く探知装置)によってスクリュー音が解析できなかったというのは不自然です。スクリュー音を確認できたのか、できなかったのかは、確認はできたが船の特定ができなかったのかは、なぜか報じられていません。

 パッシブソナーは、スクリュー音の特徴から、潜水艦の種類や艦の特定を行います。1kmという近い距離で、それに失敗することがあるのでしょうか。海中に「ピン!」という音を出して、その反射を探知することで位置を正確に計測するアクティブソナーも使ったということです。潜水艦側にもこの音は聞こえるので、慌てて潜航したはずです。こんな状況で水上艇の追跡を振り切れるとは、考えにくいと思いました。

 本当に潜水艦だとすると、「あたご」が直ぐ近くに来ているのに潜望鏡深度のまま航行を続けていたことになります。潜水艦は浮上した時点で周囲は確認しますから、この時点で「あたご」に気がつく可能性は十分にありますし、それ以前にソナーで気がついてもおかしくありません。

 報道から現場の様子を推測してみます。もちろん、報道されていることは、常に現実のすべてではなく、誤っていることすら珍しくないということを念頭に置いて読んでください。

 潜望鏡を発見したのは艦長と乗員でしたが、どちらが先に発見したのかは不明です。ソナーの当直にパッシブソナーによる確認が命じられますが、ソナー当直は潜水艦を確認できませんでした。そこで、アクティブソナーで探査したところ反応があり、やはり潜水艦だということになった…。

 最初に艦長が視認した場合、他の乗員が艦長に引っ張られて、見えていない物体を見てしまう危険があります。あるいは、艦長でなくても、他の乗員の言に、他の乗員が惑わされる潜在的な危険は常にあります。潜望鏡は確認できなくても、不自然な波が立つのを見れば、それが潜望鏡に見えてしまうかもしれません。流木などの浮遊物、クジラなどの海洋生物、あるいはこれらの両方によって、存在しない潜水艦を追いかけた可能性がありそうです。防衛省幹部が「クジラや魚群を潜水艦と誤認するケースは多い。潜水艦でない可能性も含めて慎重に調べている」と述べているとも報じられています。「中国軍の艦船ではないか」という幹部の意見も報じられていますが、こう判断できるのならスクリュー音は探知できたことになります。探知はできたが、解析ができないという意味なのか?

 海上自衛隊は現場周辺を当面監視するはずです。ディーゼル型潜水艦なら電気を使い果たして浮上してきます。原潜の場合はエネルギーの心配はありませんが、ノイズが多いといわれる原潜が動けば即座に探知されるでしょう。断言できないものの、直感では「誤認」の可能性が高いと思います。


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