国籍不明潜水艦の捜索が終了

2008.9.17



 防衛省は、国籍不明の潜水艦について、護衛艦4隻、P3C哨戒機2機による捜索によっても手がかりがないため、16日午後3時で捜索を終了しました。14日早朝以来、潜水艦が浮上していないことから、ディーゼル型ならすでに浮上しているタイミングと考えられるためでしょう。

 私は依然として、海洋生物などの潜水艦ではない物を追跡した可能性を捨て切れません。理由は以下のとおりです。

  • 近隣諸国の潜水艦が、現場海域まで海自や米軍にまったく探知されずに来られるとは考えにくい。
  • こうも綺麗に近隣諸国の潜水艦が海自の追跡を逃れるとは考えにくい。
  • 潜水艦が領海外に出たので捜索を中止したのなら、その後に捜索を継続する必要はない。
  • 防衛省が該当船の国籍を隠す理由が見当たらない。
  • 衝突事故を起こした「あたご」に、意図的に失探させた場合、再び不祥事として批判の的となる恐れがある。
  • 日本国民が海自の能力を誤解するような工作を海自が採用するとは考えにくい。

 防衛庁によると、潜望鏡を発見する前は、潜水艦に関する情報は何もありませんでした。「あたご」の艦首バウソナー「SQS-53C」は常時使え、必要に応じて曳航ソナーを出して使うこともできます。それで、1kmという近い距離にいる潜水艦がまったく探知できなかったと、防衛省は説明します。つまり、それまではパッシブソナーには何の反応もなかったわけです。7時頃にアクティブソナーに切り替えて探索が行われました。これはパッシブソナーで探知できなかったので、アクティブソナーに切り替えたのだと考えられます。発見からの4〜5分間は、潜望鏡の確認や、ソナーの確認などに費やされたと考えるべきです。

 1km先の潜望鏡は肉眼では見えません。乗員は双眼鏡を使って海上を監視します。手持ち双眼鏡は7倍、艦に備え付けのは20倍といわれます。両方で確認したのでしょうが、本当に潜望鏡が見えたのかは疑問です。おそらく、不自然な波を見つけ、その先端部分に潜望鏡のようなものが見えたというのが本当ではないかと思います。海面に変な波が立つことは珍しくなく、そこで誤認が起こる可能性があります。なぜか、発見時に潜望鏡がどの方向に向かっていたのかを示す情報はありません。足摺岬から57kmという位置は、一番近い沖の島までは約20kmです。この位置だと潜望鏡からは沖の島の海岸線は見えず、標高404mの山頂が見えるだけでしょう。潜水艦が陸地を確認するために潜望鏡を必要とする場所だったかどうかは、やや疑問です。

 防衛大臣の言によると、「あたご」はずっとアクティブソナーを当てながら潜水艦を追跡したようです。これは、パッシブソナーには反応がまったくなかったことを暗示します。これも非常に不自然です。そして、8時39分に反応はなくなります。これだけ追跡して、スクリュー音がとれず、振り切られたとは考えにくいものがあります。発見位置は領海の境界から7kmだったといいます。仮に潜水艦が20ノットで逃げたとすると、1時間に37kmも進みます。追跡時間内には64kmも移動したことになります。「あたご」は時速30ノット以上で、中国の潜水艦は早い艦でも時速25ノットです。単純に計算すると、「あたご」は潜水艦に6分程度で追いつきます。もちろん、潜水艦が同じ速度で、真っ直ぐに逃げることはないでしょうが、時間の経過に辻褄が合わない感じがするのは理解できます。

 現場海域から逃げられたとしても、その潜水艦は母港に戻る前に、別の日米の監視網に引っかかるはずです。それが起こらないのなら、とてつもなく静粛性の高い潜水艦が実戦配備になったか、元々潜水艦はいなかったかのどちらかです。前者はほとんど考えられません。

 今回の海自の発表が偽装のためだったとすると、日本国民が海自の対潜能力に疑問を持つという大きな問題があります。まして、まだ事故の記憶が新しい「あたご」を使って偽装工作をすれば、批判は小さいものでは済みません。本当に外国の潜水艦を追い払ったのなら、「外国の潜水艦を領海外まで追尾した」と発表すればよく、その後、偽装のために捜索活動を行う必要はないと思うのです。

 参考のため、以下に防衛省のウェブサイトから関連情報を転載します。


国籍不明潜水艦確認事案について

平成20年9月14日

  1. 本日6時56分、豊後水道周辺海域の我が国の領海内において、海上自衛隊の護衛艦「あたご」が、潜水艦の潜望鏡らしきものを視認した。
  2. 護衛艦「あたご」が、アクティブソーナー等により直ちに捜索活動を開始した。その結果、潜水艦の可能性が高いと判断し、上級司令部に連絡した。
  3. 8時13分、自衛艦隊司令部が、当該潜水艦は我が国自衛隊の潜水艦ではないことを確認した。また、当該目標が領海外に出ていると判断した。
  4. 引き続き、護衛艦及び航空機による捜索活動を実施中である。


林芳正防衛大臣の臨時記者会見

平成20年9月14日(16時49分〜16時59分)

Q:国籍不明の潜水艦が領海内を航行したということですが、これについての受け止めをお聞かせ願いますか。

A:先程、局長から事実関係についてブリーフィングをさせていただきましたが、今朝、早い時間にそういうことがあったということであります。相手の国籍というものもまだわかっておりませんし、この時点であまり確たることを申し上げる段階ではないと思いますが、私としては「引き続き全力で捜索をするように」こういう指示を出したところでありまして、全力で捜索をしてもらってそういったこと、事実の解明を全力でやっていくと、これが現段階での姿勢であると思っております。

Q:周辺国などへ国籍の特定のために問い合わせとかはされないのでしょうか。

A:これは、こういうことで報道もあれば、当然、ニュースを皆さんご覧になっているというふうに思いますし、これは我が方だけの話かどうか、外交ルートということもありえますでしょうし、それは今後検討していく必要があれば、やるべきことはきちっとやっていきたいと思っております。

Q:国籍が判明した場合には、どのように対応される予定でしょうか。

A:もし国籍が判明してくれば、これも我が方というよりは外交ルートになるかもしれませんので、この時点で私から確たることを言うべきかどうか、当然、相手国に事実であるかどうか、また抗議といったことをきちっとやっていくという必要が出てくるのではないかというふうに思います。

Q:平成16年に中国の潜水艦が日本の領海を横切りましたけれども、今回も中国でないかという見方もありますけれども。

A:これは、まだ確認中ということで、情報がございませんので、今の段階では「全くわからない」ということでございます。

Q:ブリーフのあった時点の話から何か新しい話はありませんか。

A:ほとんど時間も経っておりませんので、事実関係については局長が申し上げたとおりです。

Q:政府の対処方針にあるように、今回直ちに海上警備行動をとらなかった理由は何でしょうか。

A:対処方針は色々な場合がございますけれども、既に「潜水艦だ」という確認ができている時点では、たぶん領海の外に出て行っただろうと、色々なことから判断をして、また、領海の外にいてもまた戻ってくるという可能性というか、蓋然性がある場合には、そういうこともあり得るということでありますが、今回の場合は「そういう可能性ということが低い」というようなことがあって、今の段階ではそういうことに至っていないということであります。ただ、先程申し上げたようにまだ全力で捜索をしているわけでございますから、新しい状況がもしあれば必要に応じてやるべきことはやっていくという状況はまだ続いているということであります。

Q:その関連なのですが、「国籍は分からない」と、しかし「潜水艦である」ということは100%間違いないのでしょうか。

A:潜水艦であるということは、アクティブソナー等から判断しておそらく潜水艦だろうという判断をしているということであります。

Q:「おそらく」ですか。

A:はい。

Q:改めて、国籍不明の潜水艦が領海侵犯をしたということについてはどのように受け止めていますか。

A:大変遺憾なことでありますから、先程申し上げましたように全力で捜索をして事態を明らかにしていく必要があるというふうに受け止めております。

Q:今回事前に領海内に入る前には、把握できていなかったと考えていいのでしょうか。領海に入るまでは、状況を把握できていなかったということでしょうか。

A:局長から説明があったと思いますが、6時56分に潜望鏡らしきものを視認したということが最初でございますので、それ以前にはそういう状況は把握していなかったということです。

Q:それについては、どのようにお考えでしょうか。

A:まさにその時点では、まだ潜水艦であるかどうかということも含めて確認が出来ていなかったわけでございますから、見つかるにこしたことはありませんけれども、それすら見つからなかったという可能性も逆に言えばあるわけでございまして、その時点でそういうものを視認して、すぐにパッシブをアクティブに切り替えて、多分7時ぐらいだったかと思いますが、ソナーを発動して潜水艦であるということで、確認をして追尾をしたということでありますから、当初の動作としてはそういうことでなかったかなというふうに思っております。

Q:その後見失ってしまったわけですけれども、これについては。

A:海の中ですから、私もその場に居合わせたわけではありませんし、こういうことの機械やオペレーションの専門家ではありませんが、このアクティブソナーで追尾しながら、しばらくソナーに反応があったわけです。その後、8時39分に失探したということでありますから、海の中ですから色々な状況の中でそこまでは相手をソナーで探知をしていたが、しかし、その時点で失探をしたということであります。ですから、まさに少し範囲を広げて全力で捜索をしてもらうという段階に入ってきているということだと思います。

Q:この件で大臣は官邸と何か連絡を取って、指示等はあったのでしょうか。

A:事務方を通じて総理から「追尾、情報収集を徹底して万全の対応をとってくれ」というご指示を早い段階で戴いておりますので、そういうことで連絡をとりながら対応したということであります。

Q:大臣のところに一報が入るまでの時間ですが、これをどういうふうに評価しますか。

A:お渡しした資料にありますように、まずは潜望鏡が見えたという後に、ソナーをすぐに発動したということで、まずは、潜水艦かどうかということを確認する必要があると思います。その上で、当たり前のことでありますが、我が自衛隊の艦船かどうかということも確認をした上で、色々な連絡等の手続に入ったということでありますから、その辺りは速やかにやるべきことはやっていただいたのではないかというふうに思っております。

Q:発見から発表がこの時間になったというのはどういった認識、どういった理由からなのでしょうか。

A:これは局長も申し上げたと思いますけれども、先程言いましたように、広域の捜索ということで、次の段階に入ってきているということもあり、また、その段階でお知らせをする必要があろうということで、皆様方にお呼びかけをしたのがお昼過ぎだったと思いますが、そのくらいの時間になったということであろうかと思います。

Q:ただ、領海侵犯というのは、主権の侵害ですから、航空自衛隊の領空侵犯があった場合には直ちに公表するのですけれども、そういう意味でもやや遅かったのではないかという気がするのですが、領海侵犯が確認されたのは、もっと早い時間ですから。

A:細かいことは、局長からブリーフしたと思いますけれども、領海の中で最初に見たときには、潜望鏡が見えていたということですが、本当にこれが潜水艦のものであるのかということと、我が自衛隊の艦船なのかどうかということを確認しないといけないわけでありまして、先程申し上げたように、そういう確認をきちんとした上で対応したということだと思っております。


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