今朝、北海道新聞に「潜水艦の正体はクジラ? 防衛省、結論迷宮入り」という、共同通信の配信記事が掲載されました。確証はないものの、14日に足摺岬沖で起きた領海侵犯事件で、外国の潜水艦が該当海域にいた可能性は低く、クジラの可能性が高いという結論に向かっています。
この記事で最初に潜望鏡を発見したのが砲術長だったことが分かりました。砲術長が約10秒間見た後、艦長に報告し、艦長は「水面下に消えかかった潜望鏡らしきものとその影響で波打つ水面」を見ました。アクティブソナーで探知したのは2回だけで、いずれも位置は領海外、最初の探知は「潜水艦の速度では想定できないほど現場から遠い地点」だったといいます。位置が極めて近く、深度差もほとんどないのに、こんな反応しか取れないのはおかしいのです。スクリュー音が取れなかったのは、対象物にスクリューが付いていなかったためと考えるのが妥当です。潜望鏡をはっきりと見たのも砲術長一人で、艦長が見たものは一層不確かです。
防衛省が、潜水艦が存在した可能性が低いというのは、近隣諸国の潜水艦の動向、簡単に言うと「アリバイ」を確認した結果です。潜水艦が別の場所で日米の探知網に引っかかっているとかメンテナンス中で動けないとか、事件時の「状態」を確認したのでしょう。消去法で存在が可能だった潜水艦を絞り込んでいったのです。その結果、可能性のある潜水艦がいなくなったので、潜水艦ではないと結論したのです。クジラをあげたのは、砲術長と艦長の目撃証言を分析した結果でしょう。波の立ち方がクジラの場合と似ていたのでしょう。しかし、本当にクジラだったかどうかは確認できません。ここまで確認するために時間がかかったのは当然です。
この発表自体が防衛省の偽装で、実は中国の潜水艦を探知していたという人が出るのは当然予見できます。しかし、今年死亡事故を起こしたばかりの「あたご」に、目の前の潜水艦を取り逃がすという失態を演じさせることには、何の利益もありません。国民は海自の能力に疑問を感じ、国会での追及を強めるだけです。本当に中国の潜水艦を探知したのなら、未発表のままにするのが通常です。今回あえて発表したのは「あたご」が探知したからでしょう。漁船との衝突事件の件で、情報隠蔽と批判された海自が条件反射的に反応したと考えた方が合理的です。あとで情報が漏れ、「あたご」が中国の潜水艦を探知しながら取り逃がしたことが噂や憶測として流れるよりは、先に公開した方が被害が小さくて済むのです。
専門家の中に誤認説を唱える人は1人くらいはいる、と思っていたのですが、どの記事を読んでも見当たりませんでした。「俺だけが変なのか?」とも思いましたが、素朴な疑問を捨てないことが大事だと再認した次第です。
インターネットの掲示板などを見ると、兵器のデータで頭がいっぱいの軍事オタクたちは、外国潜水艦の存在を疑いもしなかったようです。海軍の兵器の性能に詳しいつもりでも、情報を分析する基本的な能力がないと、こうした推測はできません。
アメリカがベトナム戦争に本格的に介入することになったトンキン湾事件で、ソナー要員が存在しない魚雷のスクリュー音を聞こえたと誤認し、攻撃を受けたと誤認したことが思い出されます。軍事評論は「予想ごっこ」とは違います。トンキン湾事件のような事件を引き起こさないための技術なのです。もし、今回のような事件が致命的なタイミングで起きたら取り返しがつきません。