米軍がアフガンで冬季攻勢を予告

2008.9.5



 military.comによれば、ジェフリー・スクロエザー少将(Maj. Gen. Jeffery J. Schloesser)が、アフガニスタンの米軍はこの冬に攻勢をかけるだろうと述べました。

 4月と5月に暴力事件が40%急増したのは、武装勢力が冬期間に兵器を蓄えることに理由の1つがあります。冬期間、彼らの動きを封じないと、彼らはパキスタンに戻らず、アフガン内で隠れ家を探そうとするでしょう。スクロエザー少将はアフガン東部にいる武装勢力の数を7,000〜11,000人と見積もっています。アフガン東部での6月と7月のテロ事件は、年初よりも20〜30%増加しています。8月18日に、6人程度がパキスタンに近い米軍基地に自爆攻撃を行った攻撃は、アラブ人とチェチェン人によって行われました。イラクからアフガンに行くことが奨励されている実態は解明はされていないものの、テロ組織のウェブサイトにそうした記述が見られると少将は言います。昨年、米軍とNATO軍は222人の死者を記録しましたが、今年はすでに200人近く(米兵105人を含む)が死亡しています。米軍とNATO軍の指揮官は、米軍を約10,000人増員されると主張しています。アフガンにはすでに、過去最高の34,000人の米兵がいます(NATO軍指揮下の米兵15,000人を含む)。

 スクロエザー少将の発言は脅し作戦ではなく、本気だと思われます。多分、今年の冬はパキスタン国境周辺で戦闘が行われるのでしょう。パキスタン国境に出せる戦力は34,000人の3分の1から2分の1として、15,000人も出せば大変というところです。NATO軍に5,000人出してもらって20,000人体制になれば凄いのですが、そこまでいかないような気がします。それで、10,000人増員の話が出ているのでしょう。戦線がある戦争ではなく、ヘリコプターで敵基地に攻撃をかける戦闘が中心なので、戦力比が低い点はそれほど問題にはならないかも知れません。

 米軍が本格的に攻勢をかけるのなら、この冬がアフガン戦線の天王山となるでしょう。対テロ戦に一定の結果が出るはずです。上手く行けばよいのですが、心配なのは、タリバンがパキスタン国内に逃走する可能性です。

 その理由となる事件が起こりました。ついに米軍がパキスタン領域内で地上戦を行ったのです(記事はこちら)。9月3日、米陸軍はパキスタン国境から1マイルの場所で、タリバンの隠れ家に対して地上戦を行い、少なくとも15人を殺害しました。戦闘の詳細は明らかにされていません。当然、パキスタン政府は米政府に抗議しました。パキスタン政府が抗議しても、アメリカはこうした作戦を継続するでしょう。民主党の大統領候補が公約にしてしまったので、共和党候補を支持するには、先にやってしまった方が、民主党候補を目立たなくできるという効果があります。だから、これは既成事実化しそうです。

 パキスタン軍に米軍に対する反発が強まると、逃亡するタリバンを黙認する恐れがあります。さらに逃亡して、タリバンが中国、タジキスタン、ウズベキスタンなどの隣国に隠れ、アフガンに戻ってはテロ活動をするかも知れません。こういう状況を米軍が防止できるのなら、冬季の攻勢は意味があります。しかし、私はその成果に悲観的です。現状には、未だに「これで戦争が終わる」という感触が感じられません。

 私は最初から、イラク戦は避け、アフガンに戦力を投入すべきだと主張してきましたが、それでも成功はむずかしいと考えていました。この見通しは今でも変わっていません。ブッシュ政権はアフガンでの戦闘を適当に済ませると、意味のないイラク戦に全力を投じ、またアフガンに主軸を移そうとしています。状況は当初よりも悪くなっています。ヘリボーン作戦で、武装勢力を包囲することはできず、今後もザルで水をすくうような戦いが続くことになります。


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