ガザ侵攻:市街戦の前段階に突入か

2009.1.13



 ガザ市に向かってイスラエル軍が進軍し、予備役の投入が決まったことから、イスラエル軍は本格的な市街戦へと戦いの段階を進めたことが確実となりました。

 戦況は情報が不十分な上に明確に確認が取れない点が難点となっています。

 space-war.comによると、戦車がガザ市に隣接するアル・シェイク・アジリン(Al Sheikh Ajlin)とジアトン(Zeitun)と、ガザ北西部の地中海に近いスダニヤ(Sudaniyah)に対する戦車砲の攻撃が増加しました。残念ながら、これらの場所がどこにあるのかが特定できていません。ガザ地区に関してはよい地図がなく、細かい地名まで把握できないのです。(誰か詳細な地図の在りかを知っていたら教えてください)

 ハマスの発表(12日付)では、イスラエル軍が激しい抵抗に遭い、ハンユニス(Khan Younis)の東部にあるクザーア(Khuza'a)から撤退しました。イスラエル軍はブルドーザで住宅を破壊しています。これはハマスの戦死が隠れる場所を街の外側から順に壊していくことを意味します。

 ハマスの発表(12日付)では、アルシファ病院(Al-Shifa hospital)の院長、フセイン・アゾウア博士(Dr. Hussein Ashour)が語ったところでは、病院に運ばれてくる死体の多くは、かつて見たこともないように、焼けて、切断された状態だということです。ノルウェー人である博士は、これらはアメリカのイラク戦争で見られたものと同じだと指摘しました。アゾウア博士はこれを非通常兵器(unconventional weapon)と呼んでいます。被通常兵器は核・生物・化学兵器を指します。アゾウア博士が言いたいのは、化学兵器が使用されたということです。アゾウア博士は、これらの死体が白リン弾で攻撃されたとは断言していませんが、記事は関連づけて書いています。その見解は間違っていないと私も考えます。旧ロシア軍は白リン弾と化学兵器と定義しましたが、一般的には化学兵器ではないとされています。それはともかく、気になるのは死体が焼けているだけでなく、切断されているという点です。これが白リン弾で起きた現象なら、燃える白リン弾が骨まで到達し、骨を焼き切ったために体が切断されたのだと考えなければなりません。そうだとすれば、白リン弾の効果は一般的に思われているよりも強力だと考えざるを得ません。

 ウィキペディアの白リン弾の解説は不適切で、意図的に白リン弾の威力を弱く評価したがっているようです。たとえば、「焼夷効果は持っていない」と書いていますが、白リン弾が敵軍の装備品(車両、燃料、弾薬など)を攻撃するために用いられるのは常識です。実際、ウィキペディア日本語版の軍事関連記事は、変な軍事オタクが書き込んでいるのか、情報がオタク向けに偏っていたり、使えない記事もあります。このため、英語版を読み直すこともしばしばです。

 人権団体は、白リン弾を市街地で用いたことについて、国際法違反の疑いがあると主張しています。注意して欲しいのは、この場合「疑いがある」というのは、違反かどうか定かではないという意味ではありません。国際法の分野では、断定的な表現を避ける傾向があり、特に英語の論文では「国際法に違反した疑いがある」とか「恐らくは国際法違反である」といった表現が好んで用いられます。これは事実上「国際法違反である」というのと意味は同じです。

 白リン弾の問題は、あとでまた取り上げたいと思っています。

 イスラエル軍の発表(12日付)では、同軍はガザ地区全体で60カ所のハマスの拠点、9個の武装グループ、ラファ(Rafah)にある20カ所の密輸トンネル、迫撃砲2門、ロケット発射場9カ所、テロリストが使っていたビル3棟、車両2台、その他の標的を攻撃しました。しかし、都市部のどこまで進撃したという情報はありませんから、やはり市街の外縁部で活動中と判断して良さそうです。

 砲爆撃でハマスの拠点を潰しながら、工兵隊がブルドーザで建物を壊し、市街を平地にしてしまうことで、市街戦をできるだけ避けるのがイスラエル軍の戦術と見て差し支えなさそうです。当然、これは時間のかかる作戦です。つまり、本格的な戦闘はこれからであり、ガザ住民の被害はこれからもっと酷くなるということです。


ガザ侵攻に関する重要な情報源

マップは右クリックで拡大できます。


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