久しぶりに戦術上の情報が出てきました。military.comが、アフガン東部のパキスタン国境に近いカムデッシュ(Kamdesh)の前哨基地が先週武装勢力に攻撃され、米軍はその基地を放棄しました。
タリバンは直ちに勝利を宣言しましたが、米軍は10月3日よりも前に撤退を計画しており、マクリスタル大将の孤立している武力拠点を放棄して、民間人を守るために人口集中地域に焦点を絞る計画に従ったためであると説明しました。NATO軍に寄れば、この戦いで米兵8人とアフガン兵3人、推定100人の武装勢力が死亡し、基地は全焼しました。米軍は撤退する日と攻撃が一致したと説明しています。
米軍は負け惜しみを言っているのではないと思います。問題は、武装勢力が撤退する日を事前に知って、そこを攻撃しようとしたかどうかですが、記事には記述がありません。米軍から武装勢力に情報が漏れるのは日常茶飯事で、米軍がカムデッシュから撤退準備を始めたことを彼らが知っていた可能性は十分にあります。こういう情報を得たら、黙って撤退させるのではなく、最後の一撃を加えるのはごく一般的な戦術です。それは味方に自信を与え、その地域の支配権を既成事実化するからです。基地が焼けたのはタリバンの攻撃に原因があるのかも知れませんが、米軍が基地を彼らに手渡さないために放火した可能性もあります。タリバン広報官によると、米軍は撤退した後で基地を空爆しており、これは米軍がこの基地に戻らないことを示していると述べました。この爆撃で基地が焼けたのかは不明です。また、タリバン広報官はこの基地に旗を掲げたと宣言していますが、この事実が確認されたとは書かれていません。
この記事を読んで、映画「大いなる陰謀」を思い出しました。この映画では、山間部に孤立した前哨基地を設ける作戦が企画され、それによって若い米兵が命を落とします。ワシントンで政治的アピールのためにだけ立案された作戦で、それをもって現在のアメリカ国内にある矛盾をこの作品は表現しています。マクリスタル大将はこうした作戦とまったく逆に、前哨基地を放棄して、市街地に兵を集中させる作戦を考え、既に実行に移しているのです。この作戦もうまくいかないなら、アフガン戦はほとんど期待が持てないことになります。今回の増派はその試金石となるでしょう。心配なのは、前哨基地を放棄して市街地に兵を集中することで、タリバンが容易に市街地に接近し、意図とは裏腹に市街地でテロや戦闘が起きるようになることです。これでは民間人を守るという狙いは果たません。特に、テロ攻撃は組織的な攻撃と違って、接近するのをつかみにくい問題があります。問題は守備側がどれだけ濃密な防衛戦を構築できるかですが、軍事上の防衛戦には実際には隙間があります。その隙間は武器の射程によって埋められているわけです。部隊が防衛戦を通過しようとすれば、守備側が発見できます。ひとまず敵を食い止め、他の場所にいる友軍を現場に集めて戦力を集中し、敵を撃退します。テロ攻撃のように一人でも実行できる工作は、こうした防衛方法をすり抜けます。テロリストを発見しても、その場で自爆することで被害を出し、敵にテロ攻撃が成功したという宣言を許してしまいます。どうなるかはタリバン次第です。主導権は彼らが握っています。それがこの戦いの特徴です。本来、こういう戦いは避けるべきなのですが、とうの昔に避けられない状況になっています。こうした議論は同時多発テロの直後にやっておくべきことでした。
ところで、オバマ大統領にノーベル平和賞が与えられることになりました。率直な感想では、現在までに確立した政治的進歩は核廃絶とはほど遠く、もう少し進歩が明らかになってからの方がよいと感じましたが、ノーベル賞委員会はオバマ大統領の政策を支援したいという主旨で賞を与えたようです。これによって、核廃絶が推進されるなら意味はあります。しかし、核廃絶は国内問題と違い、オバマ大統領の努力だけで実現されるものではありません。つまり、非協力的な国の反対で努力が無駄になる危険も大いにあるのです。より少ない努力で受賞の効果を破壊できることを考えると、受賞の評価はまだ出せません。ですが、これによってオバマ大統領の訪日中に広島や長崎の被爆地を訪問する可能性は高まり、日本が核廃絶を支援する機会が生まれるかも知れません。