国内メディアが、普天間移設問題が日米間で大きな懸念材料となっていると書いたワシントン・ポストの記事を盛んに報じています(記事はこちら)。すでに鳩山政権はオバマ大統領の来日までの決着は無理だと発表し、それもまたワシントン・ポストで報じられています(記事はこちら)。
いかにも日米間が、それも鳩山内閣の決定によって危機的状態に陥っているかのような報じ方です。確かに、記事にはロバート・ゲーツ国防長官の「もし、日本が米軍再編のロードマップをバラバラにするのなら、問題は非常に複雑で非生産的になり得る」という発言や、彼が食事会や歓迎式典を辞退した話や、その他の米側の不満を伝えています。しかし、この記事は必ずしも国内報道から感じられるような状況を報じるものではありません。ジョンズ・ホプキンス大学(Johns Hopkins University)の「エドウィン・O・ライシャワー・東アジア研究センター(the Edwin O. Reischauer Center for East Asian Studies)」のセンター長、ケント・コールダー氏(Kent Calder)のコメントが文末に載っています。「私はこの状況を30年間で一度も見たことがありません。私は日本人が頻繁に、特に非公然とアメリカの外交官に口答えするのを聞いたことがありません。アメリカ人がいつも『これで決まりだな』と言うと、日本人が『アア・ソウ・デス・カ(これで決まりですね)』と答え、我々は合意に達します。この状況は新しいことです」。
要するに、この記事はこの30年間でなかったことが起きたことによるアメリカ側のショックを伝えているだけで、日米関係が崩壊する話ではないと考えてよいと、私は思います。もともと、在日米軍は第2次大戦が終了した後で、日本軍の解体のために置かれたもので、その後、アジアにソ連(当時)や中国の影響が広がらないようにするために役割を変えたものです。その後、朝鮮戦争が起こると、在日米軍は朝鮮半島の有事に備えるために不可欠となり、ベトナム戦争では戦域外の後方支援基地として使われました。こうした経緯を考えると、いまも在日米軍は朝鮮半島の有事や中国の勢力拡大に備える役目を果たしていると言え、普天間基地の移設問題だけでアメリカが中国を新パートナーに選ぶわけがないのです。ゲーツ長官は日米関係を損ねない範囲で抗議の姿勢を見せたのです。これまで日本がアメリカの主張を丸呑みしてきたことを考えると、これまでが異常だったのであり、今回の変化で正常に戻ったと考えるべきです。この記事を読んだアメリカ人の多くは、日米関係の実状を始めて知り、日本が首を縦に振るだけだったことに違和感を感じるはずです。常識的なアメリカ人なら、「日本人にも自分の意見を言う権利はある」と考えるはずです。この程度のもめ事は、アメリカ政府は他の国々と常に抱えています。北京オリンピックの開会式に参加したブッシュ大統領(当時)、プーチン首相は、勃発したばかりのグルジア紛争について激論を交わしたと言いますが、両国の関係は壊れていません。それに比べたら、基地移設問題はまだしも軽度の問題です。