米軍グアム移転の陰に地元の経済的利益
米説明責任局がまとめた、米軍のグアム移転に関するレポート「GAO-09-653: Defense Infrastructure: Planning Challenges Could Increase Risks for DOD in Providing Utility Services When Needed to Support the Military Buildup on Guam」からポイントとして憶えておくべき数字を拾い出しました。(ダウンドーロ用のページはこちら。pdfファイルはこちら)
以前に書いたように、移転のためのマスタープランは未完成で、来年1月の完成を目指して作業が進められています。そのために、説明責任局のレポートも何度か書き換えられています。その度に、移転費用が上昇し続けているところが問題視されているわけです。1月にマスタープランが完成する時までに、移転費用が150億ドルを超えている可能性もあります。
現在、グアムの米軍基地の面積は212平方マイル中、62平方マイルで、29%を占めます。2009年現在、グアムにいる米軍部隊は15,000人規模ですが、移転が完了する2020年までには39,000人に増加します。海兵隊8,000人とその扶養家族9,000人が、その中心です。今年7月の時点で、グアムの人口は178,430人です。これだけの人口増加はグアムに大きな変化をもたらすのは確実です。
さらに、移転に伴う建設工事のために、年間予算10億ドルごとに、労働者5,000〜10,000人が必要で、労働力は最大で20,000人になると、米海軍は見積もっています。現在の計画では、工事のピークは2013年の20,000人で、2016年までに7,500人へ減少します。つまり、年間予算が25億ドルなら労働者は12,500〜25,000人が必要になる計算です。グアムにいる労働者は5,600人で、その内訳はグアムの住人4,200人とH-2B労働ビザで一時的にグアムに滞在する1,400人です。海軍は、グアムがハワイ諸島から来る6,000人を加えて、約7,000人の労働者を確保できると見積もります。残る約8,000人の労働者は、H-2B労働ビザの労働者になると見積もられています。連邦法は会計年度中に、資格を持つ労働者に66,000人までしかH-2B労働ビザを発行しませんが、2008年に成立した「資源整理法(the Consolidated Natural Resources Act)」により、2014年12月31日に終わる最初の期間中、非移民の労働者は66,000人の制限を超えてグアムと北マリアナ諸島へ入れるかも知れません。
これだけの数字を見れば、グアムにとって米軍の移転は巨額の富をもたらす問題であることが分かるでしょう。中期的に建設工事が継続し、建設会社は気前よく代金を支払う米軍の仕事を受注できて、労働者に仕事が回るだけでなく、外部からやって来る労働者が落とす金も無視できません。長期にわたって大量の人々を宿泊させることができますし、彼らが休日にレクリエーションに費やす金も見込めます。さらに、移転が完了した後は、米軍が地元に落とす金が長期的に継続するのです。地元は計画通りに米軍に移転してもらいたいと考えているはずです。アメリカが日本に決断を急がせているのには、こういう理由があります。つまり、列車はもう駅を出たのだから、次の駅までは止まれないというわけです。これがアメリカが日本政府に決定を強く要請している理由でしょう。
ワシントン・ポストによれば、ロバート・ゲーツ国防長官は日本に向かう軍用機の中で、記者に「普天間の代替施設に関して本当の進展なしに、米議会がグアムへ向かうことに賛成するとは考えるのはむずかしい」と述べています。米軍が承知しないのではなく、米議会が反対するという点が興味をひきます。これは嘉手納基地への統合では駄目なのかという問題にもなりますが、それについては私はまだ十分な結論を出せていません。
「ウォール・ストリート・ジャーナル」が26日付のコラムで、鳩山首相が「代替案を深く考えているようには思えない」と述べたと報じ、アメリカが苛立っているかのような演出を、国内メディアが試みています。この報道手法は日本のメディアの「定番」ですが、ほとんど意味はありませんし、むしろ有害です。このコラムは非常に短い簡単な内容で、あえて取り上げるほどの価値があるとは思えません。内容はあきたりの、北朝鮮と中国の脅威論を理由に、米軍再編の必要性を説いているだけです。こんな記事はすでに飽きるほど目にしています。それに、記事には「沖縄の住民は基地反対に関して団結しておらず、それと同じくらいの人たちは基地がもたらす経済的利益を楽しんでいる」とも書いてあります。まったく沖縄の人たちをバカにした記事です。アメリカのメディアは自国の利益を代弁することまでするのに比べ、不思議なことに、日本のメディアはこういう記事をあっさりと受け入れます。これでは外国の謀略に簡単に引っかかる危険があるので、直ちに止めるべき報道手法です。私がここで述べたような経済効果をあげれば、ウォール・ストリート・ジャーナルの記事には簡単に反論できます。「あなた方は自分たちの経済効果しか眼中にないのか。アメリカ人は意外と冷たいんだな」と、たしなめてやるべきなのです。
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