オバマ大統領が折衷案を検討中

2009.11.17

 spacewar.comによれば、オバマ大統領はアフガニスタンの米軍増派について、次第に折衷案的な戦略に傾いています。

 ロバート・ゲーツ国防長官によると、オバマ大統領はアメリカのアフガンへの関与を高めると同時に、汚職まみれのカルザイ政権に米軍の駐留には期限があることを伝える方法を考えています。つまり、相手に自分の決意を伝えると同時に、そこに永遠にいないことをバランスよく伝えるかという問題です。アフガンの治安に責任を持つマクリスタル大将は「いま増派しないとアフガンはタリバンの手に落ちる」と述べ、駐アフガン大使のアイケンベリーは「増派はアフガン政府のアメリカ依存を高めるだけだ」と互いに正反対のことを主張しています。オバマ大統領は、この両者の見解を両立する戦略を模索しているのです。

 やはりと言うべきでしょうが、オバマ大統領はこの戦争に必要な戦略とはかけ離れたところで考察を行っています。タリバンを壊滅し、アルカイダの組織を崩壊させるのが、この戦いの最終目標のはずですが、検討の焦点はまったくずれたところにあります。これはオバマ大統領だけの問題ではなく、ブッシュ前政権、EU、国連すべてが陥っている落とし穴だといえます。戦争を続けている者が、誰もこの戦争をどう終わらせるかを考えていないのです。やっているのは目の前に出てくる問題に対処することだけで、肝心の戦争の終結には目が行っていません。アフガン戦略を正しく組み立てたとしても、パキスタン国内に大きく広がったタリバンの支配地域はどうするのかという問題があります。パキスタン軍がどれだけアテにできるかは不明です。これだけ広い山岳地域に拡大した武装勢力を一掃するのは、極めて難しいものがあります。 かつ、パキスタン国内ではアメリカの指示で掃討作戦を行うことに強い反発があり、パキスタン国内に米軍基地を設けることは厳しい状況です。オサマ・ビンラディンは生涯をかけて、中東全域に厳格なイスラム法によって統治する国家を建設できればよく、自分の死に間に合わなくても、後を継ぐ者がいればよいわけです(アメリカの大統領はそうはいきません)。こうした状況に必要な戦略を、どの国家、国際組織も持ち合わせていないのが問題です。

 現在の対テロ戦を表現する言葉として、「Global War on Terrorism」「Global War on Terror」などの言葉が使われてきましたが、これ以外に「Long War」という言葉も使われてきました。いずれも言葉も不適切という理由で、米軍、米政府共に使わなくなってきました。実のところ、2001年の同時多発テロ以降のイスラム過激主義者との戦いを表現する適切な言葉は未だに確立されていないのです。私自身、この戦いが伝統的な「戦争」の定義にはそぐわないと感じながらも、「対テロ戦争」「対テロ戦」といった用語を便宜的に用いてきました。これは「南北戦争」を指す適切な言葉がないため、未だにアメリカでは「Civil War」という内戦を示す言葉を用いているのと似ています。名称の定義がボケていると、戦争のやり方までボケてしまうようで、適切な戦略論を聞けた試しがありません。すでに、ブッシュ政権がねじ曲げた戦略のミスは修正しがたいところまで来ているのですが、それを根本的に変えようと言った人はいません。そうすれば、自分たちもブッシュ政権の戦略に反対しなかったことを認めることになるからです。オバマ大統領は唯一の反対者だと言えるかもしれませんが、いまやブッシュ政権の後を担う者という立場に就いています。イソップの「裸の王様」みたいに、アメリカ大統領という「王様」に向かって、率直な意見を言う者がいない現状は打破されるべきです。これは全世界が協力して、世界が道を踏み外さないために努力すべきことです。

 話を元に戻します。アフガン増派は現状を打破するためというよりは、現状維持のための戦略判断です。これによって、事態はよくなるのではありません。既に軍事的手段による解決は不可能で、長期にわたる民政上の努力しか争いを解決する手段はありません。問題はこの地域の住民が武装勢力を支援しているためで、それを本来の政府を支持するように変えないことには、武装勢力の拡大を止める術はないのです。


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