フランスがロシアに艦船を売却?

2009.11.24

 military.comによれば、月曜日にフランスの強襲揚陸艦ミストラル(the Mistral)がロシアのサンクト・ペテルブルグへ寄港しました。目的は潜在的な購買者であるロシア海軍へ、その強襲上陸の能力を示すためです。

 ロシア当局は今年、フランスからミストラルのような艦船を購入することで、最初のNATO諸国との武器取引を行う計画を公表していました。ミストラルは排水量23,700トン(21,500メートルトン)、全長980フィート(299メートル)、1ダース分のヘリコプターで数百人の兵士を直接適量内に輸送する能力を持ちます。ロシア海軍によると、2008年8月に黒海艦隊がグルジアに兵士を送り込んだときは26時間を要したのに比べ、ミストラルは40分間で同じことができるといいます。ミストラルはネバ川に繋留されました。ロシアのメディアはフランスとロシアの両海軍が今週、この艦で統合演習を行うと報じています。ミストラルを購入するには5億ユーロ(7億5千万ドル)が必要だとされ、ロシア高官は同国で、数隻をライセンス生産することに関心を示しています。当然、グルジアからは批判が出ており、同国議会の防衛委員会のメンバー、ニカ・ラリアシヴィリ(Nika Laliashvili)は、「我々はこのような船をロシアに売却することに強く反対します。それはグルジアに対して深刻な危険をもたらします」と述べました。ミストラルは2006年に就航した、このクラスの2隻の内の1隻で、レバノンの難民救出作戦で最初に注目をあびました。フランス防衛省の広報官は、この船はヘリコプター、地上軍、病院、難民、その他の貨物を運べることから「スイスの軍用ナイフ」と評しています。NATO高官はこの艦船の売却にコメントしませんでした。ロシアの造船業界は、国内生産に投資すべきだとして、ミストラルの購入に反対しています。

 ソ連崩壊後、ロシア海軍が崩壊したことは今や周知の事実です。武器の更新もままならず、原潜クルスクの沈没事故のように、精鋭部隊までが大事故を起こすようになってしまいました。そしてついに、自国で造るよりは、買った方が早いという段階にまで来たわけです。記事には、ロシアには航空母艦がアドミラル・クズネツォフ(Admiral Kuznetsov)1隻しかなく、この艦すら機械的な故障に悩まされ続けていると説明されていますが、最近、ロシアの大統領や首相からも、ロシアの武器開発が遅れており、技術革新が必要だという声明が出されています。しかし、「とうとう、ここまで来たか」という感じがします。

 スイスの軍用ナイフを使ったことがある人ならば、その使いやすさをよく知っているはずです。ミストラルはさぞ使いやすい船のようです。この艦は、1個大隊の人員と装備を搭載でき、一気に海岸に揚陸させられる能力を持ちます。グルジアが懸念を表明するのは当然です。グルジアとロシアは紛争状態にあり、グルジア西部が黒海に面しており、2008年には実際にこのルートからの侵攻を受けました。北部はコーカサス山脈で隔てられていますが、西部は下手すると、ロシアからグルジアへの進入路となりかねません。もし、ロシアが数個大隊を海路で投入する能力を持つならば、グルジアにとって深厚な脅威となります。ロシア軍がこの方法でグルジアに侵攻する場合、まず数個大隊でグルジアに上陸します。港を占領して港湾設備を確保し 、こうした時間の最中、準備を整えた後続部隊が輸送船で港に接岸し、内陸部へ向けて進撃していく、という手順になります。グルジアがこの方面に張り付けられる軍隊を撃破するだけの戦力を、強襲揚陸艦が運ぶ部隊が持てるかどうかがポイントになります。

 ロシアがいかにグルジアのNATO化を嫌がっているかがよく分かる話です。大国同士の戦争はもはや想定しにくいことから、崩壊した海軍力を増強するにあたり、まずは最も必要な艦船から手をつけたのです。

 なお、記事の後半には、フランスの武器売買に関するデータも載っているので、ご参考にして下さい。

Copyright 2006 Akishige Tanaka all rights reserved.