大量銃撃事件:ハサン少佐の横顔

2009.11.7
修正 同日12:45

 昨日起きた恐るべき銃撃事件について、異例の分量の続報が報じられています。それによって、事件の詳細が少しずつ明らかになってきました。

 military.comによれば、フォート・フッド基地で大量殺人を行ったハサン少佐を撃った警察官はキンバリー・ムンレイ巡査(Sgt. Kimberly Munley)と同僚は、銃撃の報告を受けてから3分以内に対応し、ムンレイ巡査は撃たれながらも、ハサン少佐に4回命中させました。また、同基地司令のロバート・コーン中将は別の勇敢な女性の行動を称賛しました。彼女は負傷者を運び、自分のブラウスで止血帯を作り、それから自分の臀部が撃たれていたことに気がつきました。

 military.comの別の記事によれば、ハサン少佐は事件を起こす数日前に、自分のアパートを掃除していたことが分かりました。隣人の女性によれば、ハサン少佐が水曜日に彼女を訪問し、冷凍のブロッコリーとホウレンソウ、Tシャツと棚、真新しいコーランを含むいくつかのアイテムを譲り、木曜日には空気マットレス、ブリーフケース、卓上灯を渡しました。さらに、部屋を掃除してもらうために、彼女に60ドルを渡しました。少佐は彼女に、金曜日に海外派遣されるといいましたが、彼女はイラクかアフガニスタンかは分からなかったとのことです。犯行の動機は依然不明ですが、ハサン少佐を知る者たちは、彼が来たる海外派遣に対して抵抗していたこと、苦悩する兵士を相手にした仕事でプレッシャーを受けていたと述べました。ハサン少佐の家族は声明を出し、彼の行動は「卑怯かつ悲惨で、家族がどのように育てられたかを反映しない」と主張しました。オバマ大統領は「我々はまだ答えのすべてを知りません。すべての事実を手に入れるまで結論に飛びつかないよう警告したい」と述べました。

 銃撃は約300人の兵士が派遣準備センターで、ワクチン接種を受け、検眼を待つために並んでいた時に起こりました。兵士たちはハサン少佐が銃撃を始める前に「アッラー、アクバル!(神は偉大なり!)」と叫ぶのを聞いたと述べていますが、当局者は現段階でこれを確認していません。兵士たちは現場は、たくさんの負傷者と薬莢で戦場のようだったと述べました。兵士たちは自分の衣類を止血帯にして負傷者を生存させました。銃撃が止んでから数分後に現場に入った憲兵隊将校は、血だまりと空薬莢を踏まないように、姿勢を低くして進みました。この将校によれば、ハサンは銃創の治療を受けるために横たわり、治療している者は治療をしやすくするために、彼の手錠を外そうとしていました。

 ハサン少佐が勤務したウォルターリード陸軍病院では、ハサンの能力に何の問題もなかったと報告されています。同病院のキンバリー・ケスリング大佐は、「現時点では、彼は病院の財産だったと考えています」と述べました。ハサンを指導したトーマス・グライジャー医師(Dr. Thomas Grieger)は、インターンだった時に、ハサンはカウンセリングと追加の監督を必要とした若干の問題があったと述べました。昨日の記事で、病院での評価は低かったというのは、このことを指していたようです。ハサンが常に通っていたモスクの指導者は、生涯イスラム信者だったハサンは献身的な兵士で、過激主義の兆候はなく、祈祷の際にはいつも制服を着ていたと述べました。ハサンと働いたことがある数名は、彼がイラクとアフガンの戦争に対して怒りを表明したことがあると述べました。テリー・リー退役大佐(Retired Col. Terry Lee)は、ハサンはオバマ大統領がアフガンとイラクから兵を引き揚げることを望み、軍の中で戦争を支持する者たちと頻繁に議論していたと述べました。ハサンの別の隣人は、ハサンがアフガンに派遣されると述べ、派遣に対しては問題がないことを示していたといいます。基地のカフェで働く退役軍人は、派遣されることをどう感じるかと尋ねたところ、ハサンは「面白くなりつつあるところ」と答えたといいます。フォート・フッド基地病院のスティーブ・ブラバーマン大佐(Col. Steve Braverman)は、ハサンはアフガンに派遣される予定だったと述べましたが、陸軍当局者は後に派遣先はイラクだと述べ、現時点では確認が取れていません。匿名を希望した陸軍当局者は、ハサンがイラクに派遣されるのは望まず、アフガンを希望していたといいます。基地司令コーン中将は、ひとりの人間がこれだけ多くの人間を撃ったのは「直感的には理解しがたい」ことを認めました。コーン中将は「跳弾(撃たれた弾が物体に当たって跳ね返ること)」犠牲者を多くした可能性を示唆しています。現在、ハサンの武器が軍に適正に登録された物かどうかを調査しています。負傷者と死者のリストは未だに公表されていません。

 ハサンの叔母、ノエル・ハサン(Noel Hasan)は、ハサンは同時多発テロ以降、嫌がらせを受けており、軍を辞めたがっていたと述べました。少なくとも半年前、ハサンはインターネットの投稿で法執行機関の注意をひきました。それは自爆攻撃とその他の脅威に関する投稿で、自爆攻撃を行う者と戦友を救うために手榴弾の上に身体を投げ出した兵士を同等に扱った投稿を含んでいました。この投稿が間違いなくハサンが書いたのかどうかは明らかになっていません。連邦当局はハサンの自宅の家宅捜索の際、パソコンを押収しています。

 military.comの別の記事によると、モスクで配偶者を捜すために書き込まれたフォームに、ハサンは出身地をヴァージニア州アーリントンと書き、国籍はパレスチナと記入しました。ハサンはパレスチナ人ではありません。

 以上が気になる情報の要約です。ハサン少佐の顔写真も公開されていますが、見たところでは狂信的な雰囲気はなく、このような事件を引き起こすような人とは思えません。まだ分からない部分が多い段階で、断定は避けたいと思いますが、考えられることを書きます。

 この事件が思いつきではなく、計画的なものであることは間違いがありません。思いつきならば、部屋を整理している内に気が変わるはずです。所有物を整理する間も、彼の気が変わらなかったのは、相当な決心があったものと考えられます。昼のCNNニュースでは、大学の環境保護の授業で、ハサンが自爆テロのプレゼンテーションをして奇異に感じたという人の話を放送していました。しかし、彼に対する嫌がらせがどの程度であったのかも含め、ハサンの心理的動機は十分に調べる必要があります。たとえば、多額の借金があったといった話が出てくる可能性もあるわけです。今のところ、見た目では自爆攻撃に似たテロ攻撃のように見えますが、慎重に調査して欲しいものです。

 家族の声明文がハサンに対して冷淡に見えるかもしれませんが、これはさらなる差別が彼の家族に対してなされることを防止するためで、むしろ常識的な対応と解釈すべきでしょう。むしろ、疑問なのは軍から出てくるハサンの派遣先の情報です。なぜ、少佐の派遣先について、イラクかアフガンか明確ではないのかが疑問です。国内メディアはアフガンだと報じていますが、これは確認が取れた情報なのか、私には分かりません。

 ハサンが使った武器は、新しいニュースを見ても拳銃2丁とされています。先にCNNニュースで自動小銃と報じたと書きましたが、誤りかも知れません。該当部分は削除しました。

 ハサンが自らをパレスチナ人と偽ったことがあるのは気になります。そう書けば、好感を持ってもらえると思ったのかも知れませんし、イスラエルと戦うパレスチナ人にシンパシーを感じていたのかもしれません。

 米軍は基地の警備を厳しくするよう命じたといいますが、これはほとんど無意味です。あまり厳しくすれば、活動に支障が出ます。

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