BW社がCIAの秘密急襲作戦に関与

2009.12.12

 The New York Timesによれば、ブラックウォーター社(Blackwater USA 現社名は「Xe Services」)で働いていた民間軍事会社の警備員が秘密に行われたイラクとアフガニスタンでの武装勢力に対する急襲に参加していました。

 この急襲は2004〜2006年のイラクの武装勢力が絶頂期だった時に、もっぱら夜間に行われ、ブラックウォーター社の社員が中心になって行われ、社内では「誘拐・強奪作戦(“snatch and grab” operations)」と呼ばれていたと、元社員と現職および元情報機関の職員が明らかにしました。元ブラックウォーター社の警備員は、彼らの作戦への関与は中央情報局(CIA)、軍、ブラックウォーター社の境界線がぼやけるほど型通りになっていったと述べました。単にCIAの職員を警備するだけでなく、ブラックウォーター社の社員は、イラクとアフガンで武装勢力を捕獲・殺害する任務のパートナーとなりました。これとは別に、元ブラックウォーター社の社員は、2001年から後の数年間、抑留者を運ぶCIAの輸送飛行で警備を行ったと述べました。

 秘密の任務は、政府が認めている以上にスパイ組織と民間軍事会社の深い関係を明るみに出しました。CIAとブラックウォーター社の関係は、同社に多額の利益をもたらし、CIAの高官がブラックウォーター社に入ると、さらに深まりました。元CIA高官は「(両者は)まさに兄弟のような関係になりました。ブラックウォーター社はやがて局の延長になったような感覚がありました」と述べました。CIA広報官は、この関係についてコメントしていませんが、CIAはアメリカの法律が許す範囲で、自身の部隊が持つ技術を拡張するために業者を雇用していると述べました。ブラックウォーター社の広報は、同社がイラクとアフガンその他の場所で、CIAあるいは特殊作戦の要員と共に秘密の急襲に参加することは、契約上にはないと述べました。

 両者の関係は最近も明らかになり、同紙が報じたところでは、CIAはブラックウォーター社をアフガンとパキス谷おけるアルカイダ指導者の暗殺計画の一部のため、CIAの無人偵察攻撃機プレデターの計画を支援するために雇いました。CIA長官のレオン・E・パネッタ(Leon E. Panetta)は運用中の任務がないことを確証するための内部監査を開始しました。この記事のために、元ブラックウォーター社の社員5人と前職と現職の米情報機関の職員が匿名でインタビューに応じました。元情報機関職員によると、急襲のほとんどはアルカイダのメンバーを攻撃目標にしていました。元ブラックウォーター社の社員は、両者の関係を示すために、彼が急襲の最中に撮影したという写真を提供しました。写真は拘束した人と彼自身、ブラックウォーター社の社員と確認された人物が写っていました。

 2002年春、ブラックウォーター社の創業者、エリック・プリンス(Erik Prince)は、CIAがカブールのアリアナ・ホテル(the Ariana Hotel)に設けた間に合わせの活動拠点の警備を提供しました。すぐにプリンスは、CIAの第3位の高官、アルビン・B・クロンガード(Alvin B. Krongard)と契約し、海軍のシールズや陸軍のデルタフォースの元隊員がほとんどのブラックウォーター社の社員多数が、この拠点の周囲を警備するために派遣されました。ブラックウォーター社の役割はすぐに変わり、同社の警備員がCIAの作戦要員に同伴するようになりました。同様の進展がイラクでも起こり、バグダッドの活動拠点で同社は最初、静的な警備を行いました。さらに、同社はこれらの2ヶ国を移動するCIA職員の個人警護を提供しました。2005年にイラクの武装勢力が強くなると、ブラックウォーター社の役割も拡大しました。職員が殺されたり、捕獲されることを恐れ、CIAは職員が警備員の同行なしに警備の厳しいグリーンゾーンから離れることを禁止しました。これはブラックウォーター社がCIAの秘密の作戦に多大な影響を与え、以来、同社の警備員は任務を遂行するための最も安全な方法を決めるのを助けました。元情報機関の社員は、ブラックウォーター社の警備員は急襲の間周辺の警護を行い、特殊作戦の要員が武装組織の容疑者やその他の目標を確保したり、殺害したといいました。元ブラックウォーター社の警備員は「彼らは、玉ねぎの外皮、周囲の外縁になることになっていました」と言い、元情報組織の職員は「彼らは運転手であり銃の名手でした」と述べました。しかし、作戦のカオスの中で、ブラックウォーター社、CIA、軍人の役割はしばしば一緒になりました。元CIA職員はブラックウォーター社の警備員はしばしば、作戦で直接の関与を持つことを熱望しているように見えたと述べました。

 例によって、ポイントだけを抄訳しました。記事はさらに続きますが省略します。

 また、民間軍事会社とCIAの秘密作戦の一端が暴露されたことになります。こうした問題は、実は現在の法律上の不備にも原因があります。たとえば、ジュネーブ条約は戦闘員として認められる兵士の資格について、特に厳格な基準を定めていません。条文には単に「軍隊の構成員」と書かれているだけです。その他にも制服や記章を身につけ、武器を公然と持ち歩くことといった規則はありますが、最も根幹の部分は「軍隊の構成員」としか書かれているだけで、「軍隊の構成員」の基準は定めていません。これでは、各国が適当な手続きで国民を「軍隊の構成員」にしてしまう危険がありますが、それでは軍が維持できないので、通常は軍の訓練を受けて、国家に対する忠誠を誓った者を「軍隊の構成員」としています。そのために、各軍は任官する際に誓いの言葉を兵士に言わせています。民間軍事会社の社員は「軍隊の構成員」ではなく、ジュネーブ条約上の「傭兵」ともみなされないので、軍と共に行動することに問題があるとされてきました。しかし、それどころではなく、CIAの秘密作戦でも中心的な役割を果たしてきたのです。これは大きな問題です。

 アメリカが外国で武装勢力に対する作戦を行う場合、CIAによる秘密作戦を行うのが常です。小泉政権期に日本国民が支持した、アメリカのイラク侵攻支持は実はこういうことだったのです。武装勢力相手の戦いでは、明確な証拠なしに、戦える年齢の者を適当に捕まえては尋問・拷問して、武装勢力のネットワークを明らかにしていくという方法が使われます。過去に、こうしたやり方は、武装勢力から虚偽の証言をつかむだけで、戦域の地元民の支持を失い、国際社会からの非難を生んできました。しかし、毎度同じことが繰り返されるのです。

 ビジネスライクに考える人は、需要があって民間軍事会社が興隆するのは自然なことだと考えるかも知れません。しかし、CIAと民間軍事会社との不透明な関係には大きな問題があります。これらは恣意的に強固な関係へ発展したのであって、自然に大きくなったものではありません。民間軍事会社の社員には政府機関で培った特殊技能が不可欠です。両者が民間軍事会社が存在することに意義を見出せば、積極的に選ばれた特殊部隊やCIAの要員を辞職させ、民間軍事会社へ籍を移すといった工作が意図的に行われます。そうして、民間軍事会社を育て、政府機関の職員は天下り先として活用し、ハイレベルな生活を維持していくのです。そこで両者は機会を見つけては、共同で仕事を行い、前例を作り、予算を振り向けるようになるわけです。

 なお重要なのは、こうした関係にも「国を守るため」という正当化が可能なことです。この錦の御旗には誰も逆らえません。異議を唱える者には「非国民め。嫌ならこの国を出て行け」というセリフが使えます。そして、この関係は戦争がないと利益を生み出せない仕組みになっています。政府機関として存在する場合、戦争がなくても政府は予算を充当しますが、民間軍事会社は利益を生み出せず、業務を縮小・変更するか、廃業するしかありません。もともと、軍人は戦争を防ぐために俸給をもらい、兵を訓練し、武器を管理するためにいますが、戦争がないと金にならない組織が増えることは、戦争を国の中に呼び込むだけなのです。陸上自衛隊もイラク派遣の際に民間軍事会社を使いました。国民が支持したイラク派遣は「戦争の犬たち」の利益になったことを、いま日本国民のどれだけが理解しているのでしょうか?

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