誤魔化されるアフガン新戦略の狙い

2009.12.5

 本日はよいニュースと悪いニュースがあります。NATO加盟国25ヶ国は約7,000人の部隊をアフガニスタンに派遣することが確実になりそうです。一方、アフガン軍の訓練と増員に懐疑的な意見が出されています。

 military.comによれば、NATOのアンダース・フォー・ラスムッセン事務局長(NATO Secretary General Anders Fogh Rasmussen)は、「正しい資源により、我々は成功できる」と記者会見で述べました。約7,000人とされる兵数について、記事はラスムッセン事務局長が「少なくとも5,000人、さらにおそらく数千人」が派遣されるだろうという見通しを述べたと伝えているだけです。

 military.comが、米議会から18ヶ月間でアフガン軍・警察の効率化に成功できるかについて懐疑的な意見が出されていることを報じています。上院軍事委員会のカール・レヴィン上院議員(Sen. Carl Levin)は、大規模な米戦闘部隊が流入することは、より少数のアフガンのパートナーと一緒に海兵隊員をアフガンの村の通りに立たせることになるという懸念を表明しています。訓練教官は旅団規模で3,000〜4,000人とみられます。訓練任務の責任者として最近アフガンに着任したウィリアム・B・コールドウェル中将(Lt. Gen. William B. Caldwell)は、来年10月31日までにアフガン軍を134,000人に増員することを目標とします。米軍広報官によると、現在のアフガン軍は97,000人の兵数を持ち、94,000人の同警察部隊も3,000人近い警察官が増員されます。マイク・マレン大将(Adm. Mike Mullen)は撤退開始期限の2011年7月までにアフガン軍を170,000人にすると、スタンリー・マクリスタル大将(Gen. Stanley McChrystal)は2013年までに400,000人にすると述べています。ジェーン・ハーマン下院議員(Rep. Jane Harman)は、2度の現地訪問で、増員を達成できるのはこの半数以下であり、アフガン軍の訓練をベースにした出口戦略には数年から数十年間かかるという見通しを表明しています。

 私にはラスムッセン事務局長が何を指して「成功」というのかが分かりません。オバマ大統領が選んだのは、アフガン軍の増強に成功しようがしまいが、アフガンから足を抜くための撤退戦略です。政治的に口にはできなくても、これは失敗であり、敗北なのです。もちろん、これはオバマ政権の誤りと言うよりは、ブッシュ政権のそれでした。大体、NATOにはアフガン戦をどうするのかという明確な戦略が見えたことがなく、アメリカに追随して対テロ戦に参加するという名誉のためだけにアフガンに出兵したようにしか見えません。中世の騎士ではあるまいに…。

 アフガン軍の増員に関しては、ハーマン下院議員の意見が妥当なところでしょう。マレン海軍大将が言う400,000人は、治安作戦に必要な兵数を念頭に置いているのだと考えられます。治安維持作戦に必要な兵数「人口50人あたり兵士1人」として、アフガンでは警察部隊と併せて、600,000人程度の兵数が必要という考え方です。彼らの給料をアフガン政府が支払えるとは思えませんから、国際社会が負担し続けるのでしょう。それはよいとしても、ここまで本当に増員できるとは考えられません。この記事も、汚職や低い識字率などが蔓延するアフガンで、治安組織を発達させるのが難しいと指摘しています。そうなれば、あとは目標を達成したように見せかけるしか手がありません。そうしたインチキが現場で行われないか、我々は事態をよく観察する必要があります。

 マスコミは、新戦略が決まった安堵感から、これでタリバンとアルカイダを封じ込められると書き立てていますが、すべて誤りです。このように、世間は事実とまったく違う方向に物事を認識し、誤りに気がつかないことがあるのです。オバマ大統領が情報操作を行って、そうしたわけではありません。世間が勝手にそう思ってしまうのです。

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