北朝鮮のテポドン2号発射準備に関して、space-war.comの新しい記事が2つあります(記事1・記事2)。
しかし、どちらもこれまでの経緯をまとめたのに近い内容で、特に目新しい情報は載っていませんでした。韓国の専門家が1〜2週間で発射準備が整うと述べていることが、少々気になる程度です。もっとも、1〜2週間で準備が整うかは疑問です。最終組立工場でのチェックだけでも、1ヶ月ほどかかるはずです。また、人工衛星ロケットと長距離弾道ミサイルのどちらなのかという疑問は無意味です。どちらもほとんど同じものだからです。韓国からは、北朝鮮が弾道ミサイルを人工衛星ロケットと偽っているという声があがっていますが、おそらく、北朝鮮は人工衛星を打ち上げるつもりなので、こうした意見を言い続けていると、打ち上げが成功した時に北朝鮮にしっぺ返しを受ける恐れがあります。なにより、35mもある機体を露出させたまま燃料注入をしないと飛ばせないのでは、軍事ミサイルとしてはほとんど無価値ということを忘れべきではありません。かつて、テポドン2号を発射する地下サイロの情報が出たことがありますが、本当なのか、私はこの情報を多少疑っています。
北朝鮮のロケット開発には、他国に見られない非常識なところがあります。以前にも指摘していますが、舞水端里発射施設の近くに一般人が住んでいて、ロケットが飛行する空域の真下に人家があります。これは安全性を無視しています。ロケットは同じ形式の機体を改良しながら複数回打ち上げ、確実性を追求するものです。テポドン1号は人工衛星の軌道投入に失敗していますが、その後、イランで同型のロケットが打ち上げられたという情報はあるものの、北朝鮮では行われていません。最近、3000m級の中距離弾道ミサイルを実戦配備したと報じられましたが、この実射テストは一度も確認されていません。そして、前回打ち上げに失敗したテポドン2号を、今回は大幅に大型化したロケットを打ち上げようとしている可能性があるわけです。これでは、基準となるべき技術が確立できません。ロケットは、特に、製作される機体数が少ないので、故障率が高いのが特徴です。NASAでさえ、最近、ロケット打ち上げに失敗しています。これでは、より緊急的に打ち上げられることが多い軍事ミサイルを安定して打ち上げる技術は身につきません。
そこで考えられるのが、「やはり、北朝鮮は外交の道具としてロケット開発を続けているのではないか」という疑問です。実用化できなくても、実験を続けることで、「今度は成功してしまうかも知れない」と、海外の専門家の目を北朝鮮に釘付けにできます。その上で、瀬戸際外交を展開するのです。
2006年の打ち上げと現在とでは、状況が大きく違います。前回の発射の後、日本が提案して国連決議がなされ、北朝鮮は弾道ミサイルに関する開発を禁じられました。当時の小泉政権は、この国連外交で国内的には評価を得ました。もっとも緊急時の対応はほとんど立ちすくみ状態で、地方自治体からは不満の声が噴出しました。それでも、小泉人気と国連外交の結果によって、メディアは政府の対応をよしとしたのです。それはともかく、テポドン2号が、人工衛星ロケットであれ、弾道ミサイルであれ、北朝鮮が再び打ち上げれば、この国連決議に違反するのです。当然、国連は経済制裁を行うことになります。それが分かっていながら、北朝鮮が打ち上げ準備を進めている点について、考察する必要があります。
16日に、北朝鮮はロケットを打ち上げると予告しましたが、これは瀬戸際外交のはじまりなのかも知れません。そうだとすると、彼らは急いで発射せず、時間をかけて交渉を持つきっかけを模索するのかも知れません。病み上がりの金正日総書記が21〜23日にかけ、北朝鮮の長距離ミサイル発射基地がある咸鏡北道一帯を視察したと朝鮮日報が報じています。これも、世界の目を舞水端里に釘付けにするための工作なのかも知れません。こうしたことから、今後、北朝鮮がどんなメッセージを発してくるのかに注目する必要があると考えています。