テポドン2号は日本のどこを通る?

2009.3.14



 昨日紹介した国際民間航空機関(International Civil Aviation Organization)発表の資料から、テポドン2号の予想針路を考えてみました。

 国内メディア各社が発表した地図はイラスト地図で、あまり正確ではありませんでした。しかし、危険区域の座標が示されたのだから、Google Earthで位置を立体的に認識することができるはずです。座標を入力し、それぞれをつなげてポリゴンを作り、直線で結んでみました。下の画像の赤い長方形が2つの危険区域です。この2つの区域の中心を、舞水端里のロケット発射台を起点とする直線で結ぶと、テポドン2号のおおよその軌道が分かります。白い線がテポドン2号の予想軌道です。歪みを避けられない平面の地図上では、2つの危険区域は直線でつながらないように見えますが、立体的に見ると直線でつながります。

テポドン2号の予想軌道
画像は右クリックで拡大できます。

 こうして見ると、テポドン2号はハワイ諸島の西側海域へ向かうことが分かります。しかし、これまでとは違い、米領であるミッドウェー島やジョンストン環礁を回避しており、米領を極力避けているようにも見えます。ミッドウェー島(kmzファイルはこちら)には1996年まで、ジョンストン環礁(kmzファイルはこちら)には2004年まで米軍基地があり、それらはGoogle Earthでも確認できます。今回の軌道は、ミッドウェー島からハワイ諸島の間にある小島の上空を横切るのを避けている可能性があります。

 もっとも、この図の精度の問題もあります。機体が切り離されてから着水するまでには時間があります。その間、分離した機体は自由落下するので、「コリオリの力」も考慮しなければなりませんが、この検証では危険区域の中心をテポドン2号の軌道とみなしました。しかし、誤差を考慮しても、テポドン1号の軌道(イラスト図はこちら)よりは、さらに南側に変更されたように見えます。これには、アメリカを極力刺激したくない、北朝鮮の意図が現れているように思われます。

テポドン2号の予想軌道
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 コースが南側になったことで、日本上空を横切る位置も変化します。テポドン1号は下北半島付近を通過しました。2006年のテポドン2号の予想軌道もほぼ同じでした(イラスト図はこちら)。今回のテポドン2号は、さらに南側の秋田県と岩手県の上空を横切ります。上空といっても、宇宙空間を通るので領空侵犯にはなりません。八郎潟の辺りから盛岡市の北を通り、宮古市付近を横切りそうです。予想コースの大半は山林部で、都市部はごく一部なので、危険はそれほどありません。仮に故障による墜落があっても、機体の大半は地上に落ちる前に燃え尽きるでしょう。この付近の天文関係者や愛好家の方は飛んでいくテポドン2号を近い距離で確認できるかも知れません。今回は以前と違い、午前11時から午後4時までの間に打ち上げますから、観察は容易でしょう。

 北朝鮮が危険区域を発表したことは、図らずも日本の狂騒を沈静化する作用がありました。テポドン2号が日本に落下しそうにないことは、報じられた図面を見れば明らかだからです。2006年の打ち上げでは、テポドン2号はどこに着弾するのか分からないという論調でしたが、今回はその理屈は通用しなくなりました。アラスカやハワイを狙うという話も説得力を失いました。すでに軌道は明らかになっているのです。それでも、メディアは何とかして北朝鮮の脅威を強調しようとするでしょう。私たちは、そうした狂騒から一歩身を退いて事態を観察すべきです。


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