オバマ政権が「敵性戦闘員」を死語に?

2009.3.16



 military.comによれば、オバマ政権は、ブッシュ政権期に使われていた「敵性戦闘員(enemy combatant)」という言葉を放棄しました。しかし、キューバの海軍基地の拘留者の取り扱いに関しては変化はなく、人権派の弁護士は失望を表明しています。

 「憲法上の権利のためのセンター(the Center for Constitutional Rights)」は、その声明の中で「これは新しい瓶に入れた古いワインの箱と変わりません。起訴せず、無期限に人を拘留することは依然として違法です。我々の政府が拘留している7年以上も拘留している男性たちは、起訴するか釈放されなければなりません。」とオバマ政権を批判しました。さらに、オバマ政権はブッシュ政権期の軍事当局者を、グアンタナモベイ収容所で拷問を受けたと主張する囚人たちによる提訴から守ろうとしました。(記事はこちら

 検事総長エリック・ホールダー(Eric Holder)は、「即刻、グアンタナモベイに拘留された人たちの適切な処理を決定することは大統領の最優先事項です」と述べました。「ヒューマン・ライト・ファースト(Human Rights First)」の代表イライザ・マッシモ(Elisa Massimino)は、「私たちは政権が権限を狭める機会を利用し、過去の政策から絶縁することを心から願っています」と述べました。ステファン・アブラハム退役陸軍中佐は電話インタビューで「定義の変化は何一つありません。これがより親切で慈悲深い正義感だというのは、まったくの虚偽です。私は、彼らがやったのは、ブッシュ政権の言葉使いから排除して自分たちを議論のエネルギーから分離することだけです」と述べました。

 ブッシュ政権が捉えたテロ容疑者や武装勢力を「敵性戦闘員」と呼んだのは、ジュネーブ条約を遵守するためではありませんでした。むしろ、悪用したのです。戦闘員はジュネーブ条約上で捕虜にできると定められています。こうした捕虜は、戦争が終了後に釈放され、また戦争犯罪に関係している者は、戦争中の事柄に限って裁判にかけることになっています。ところが、ブッシュ政権が定義した「War on Terror」は、2001年9月11日の同時多発テロに始まり、その後、まったく終わりが見えない状況に陥りました。そもそも、「アルカイダとの戦い」といった名称になるべきものを、テロリズムとの戦いと定義したことは、世界中のテロ組織との戦いを意味する言葉になるため不適切でした。「テロ」は組織名ではなく、戦い方の手法です。また、オサマ・ビンラディンを逮捕・殺害しても、アルカイダが活動を止めるとは思えません。このため、「敵性戦闘員」と呼びさえすれば、戦争が終わらないことを理由に、半永久的に容疑者を拘束できるという、本来、法の精神には反した扱いができるようになったのです。ブッシュ政権は捕虜を拷問したり、国際赤十字委員会の視察を認めなかったり、捕虜の存在を隠したりして、ジュネーブ条約を無視し続けました。捕虜収容所で守られるべき信仰の自由も踏みにじり、グアンタナモベイ収容所では、宗教がらみの拷問が行われていました。また、対テロ戦争は実質的には「戦争以外の軍事行動」だというのが軍事専門家の意見で、「戦争」という言葉が定着してしまったことは問題だとされています。便宜上、「対テロ戦争」という言葉は使いますが、不正確なものであることは認識しておくべきです。

 「囚人」と「戦時捕虜」の立場がまったく異なることを知らないと、この問題を読み違えることになります。人権団体は、テロ容疑者は犯罪者であり、犯罪者として裁くべきだと主張しています。戦時捕虜は、戦争が終わるまで投降した兵士を預かる制度です。法治国家では、容疑者には迅速な裁判を受ける権利があり、起訴もしないで長期間拘留するのは違法だとされています。戦時捕虜だとしても、厳しい尋問や拷問は許されていません。

 「敵性戦闘員」という言葉は、テロ容疑者の拘留という問題の象徴となってきました。オバマ政権はそれを止めたところまではよかったのですが、依然として、テロ容疑者の処遇について明快な回答を出せていないのです。この問題には、まだ別の物語が残されています。


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