産経新聞が赤地真志帆記者による威勢のよい記事「【イチから分かる】北ミサイル迎撃 技術・法制面からは撃墜可能」を掲載しました。
自然落下するロケットや部品などは降下速度も遅く、自衛隊では「撃墜は十分可能」とみている。
大気圏内に再突入した弾道ミサイルの弾頭も速度が落ちますが、「自然落下するロケットや部品」が、どんな形になっているかが、この想定からは削除されています。記事は「ただ、政府はミサイルが不具合で日本領内に落下する事態も想定。」と書いています。不具合で落下する場合、バラバラに分解して落ちてくる可能性が高いのです。テポドン2号が1段機体を分離後、異常が起きて墜落すると、次第に空気の厚い層へ落ちてきます。低高度ほど空気の抵抗は強く、細長い機体は抵抗に耐えられずに空中分解するでしょう。こうなると、PAC-3のレーダーで正確に目標を狙うことはできなくなります。精々、グループになった残骸の中心部へ向けて、幸運を祈りながら発射するだけです。また、墜落によるタンクの破損で、燃焼材と酸化剤が混ざり合い、爆発が起こる可能性も非常に高いのです。この場合は、迎撃しないで落下するに任せるしかありません。
自然落下するロケットや部品などは降下速度も遅く、自衛隊では「撃墜は十分可能」とみている。
PAC-3の射程が短いことについては、航空自衛隊幹部の「北朝鮮の通告で飛行ルートは判明しており、現在の配備数で十分カバーできる」というコメントが引用され、「運用に支障はない」と断言されています。しかし、これが不合理なことは、23日に紹介した韓国駐留米軍指揮官ウォルター・シャープ大将の「米軍はペイトリオットミサイルが“我々の最も重要な実践の資産を守る”最良の方法で配置されるのを保証するために働いています。」というコメントが説明済みです。ペイトリオットミサイルは、軍事基地を守るので手一杯であり、広い国土を守るのはほとんど不可能なのです。ミサイル防衛システムは、領空内なら法制面では撃墜可能でも、技術的には不可能と言う方が適切です。
とにかく、今回は日韓米が風呂敷を拡げすぎです。テポドン2号の打ち上げに成功した場合、フェアリングの分離や、人工衛星本体の放出が確認されます。これら三カ国はこの段階で「人工衛星ロケットだった」と認め、それを迎撃しない根拠とするつもりでしょう。すると、北朝鮮は「我々が言ったとおりだった。日韓米は謝罪すべきだ」と新しい要求を突きつけてくる恐れがあります。こういう展開になることが目に見えているのに、弾道ミサイル説を先行させたのは失敗でした。space-war.comによれば、ジェーン社の専門家もテポドン2号を通信衛星(communications satellite)を搭載した宇宙ロケット(space-launch vehicle)と見ています(ジェーン社の簡易版記事はこちら)。記事の後半には時事通信の記事が引用され、「アメリカ、日本、韓国は北朝鮮が実際には、理論的にはアラスカまで到達しうるミサイルのテストを行おうとしていると信じている」と書いています。
先日北朝鮮が通告した航行禁止区域に対して、日韓米は何の指摘もしていませんが、この通告には弾頭が落下する部分が含まれていませんでした。弾道ミサイルだと主張するのなら、この通告は虚偽であると主張する必要があるはずですが、どの政府もそんな動きを見せていません。また、弾頭が落下する予想海域にイージス艦を派遣して、落下してくるはずの弾頭のコースや、それを観測するために付近を回遊している北朝鮮の観測船の存在を確認しなければなりません。弾頭の落下を確認すれば、北朝鮮が「宇宙の平和利用」だとする主張の嘘を裏づけ、反撃に出られるのですが、そうした動きはまったくありません。つまり、どの国も本音では人工衛星ロケットだと考えているのです。
テポドン2号の準備状況
先に引用したspace-war.comの記事は、今月16日にDigitalGlobeが撮影した衛星写真で、ロケットの組み立てに使われるタワー上部にあるクレーンが発射台の上に移動しており、以前準備が継続中であるとしています。globalsecurity.orgには、11日の衛星写真が掲載されています。少なくとも、16日までは機体が発射台上にないことが映像で明らかになり、今日に至っても、設置がはじまったという報道はありません。どう考えても打ち上げ準備は遅れています。来月9日に予定されるの最高人民会議の第12期第1回会議直前に打ち上げると見られることから、8日頃が最有力候補で、天候の状況により、それ以前に打ち上げると考えられます。すると、最大でもすでに2週間しかないことになり、これは北朝鮮の技術レベルから見ても、短すぎるように思われるのです。情報が遅れているのか何なのか分かりませんが、今回の打ち上げは色々な意味で不可解な点が多いのが気になっています。