テポドン2号打ち上げについて、週刊誌がかなり低質の情報を提供しているので注意が必要です。毎週売りきりの週刊誌としては、少しでも人びとの関心を集める記事を載せて売り上げを伸ばしたいわけですが、テポドン問題のようなテーマでは危機感を煽ることに熱をあげます。「週刊現代」4月4日号の「テポドン日本列島を直撃!」から問題点をピックアップしてみます。
ロシア軍のある極東担当情報将校のコメント
ブースターの落下予定地点の範囲が、1段目が北朝鮮の2分の1、2段目に至っては13分の1だ。つまり、北朝鮮のテポドンミサイルは技術的にかなり不正確で、どこへ落下するか知れたものではないということだ。
おそらく、この記事は「1段目が13分の1、2段目が2分の1」の誤りでしょう。その上で、このコメントを考えると、北朝鮮とロシアのロケット開発の期間の違いに気がつきます。確かに私も2段目の落下範囲が随分と広いという印象を持ちましたが、北朝鮮がはじめてのことなので、余裕をもって範囲を申告した可能性もあるように思われます。特に、この分野では性能を秘匿することが行われており、予想よりも広く申告することで、テポドン2号の性能を隠した可能性もあります。もちろん、当たっている可能性もあるので注意は必要です。それでも、1段機体が予定よりも遠くへ飛ぶことは考えにくいことです。
「軍事研究」編集部の大久保義信氏のコメント
「テポドンミサイル自体は核弾頭を搭載していない限り、ビル1棟を破壊する程度の威力ですが、問題は残存燃料です。劇物のヒドラジンを燃料としているため、少量が体に付着しただけでもひどいケロイド状となり(着弾地点の)周囲の住民はパニック状態に陥るでしょう」
週刊誌の記事はコメンテーターの発言を逐語的に掲載しないため、大久保氏がこの通りのことを言ったのかどうかは知る由もありませんから、ここでは記事に即してコメントします。
まず、テポドンを弾道ミサイルと断定している点が気になります。次に実験で核弾頭を搭載しているかのような表現も気になります。テポドン2号のペイロードは600〜1,000kg程度とみられていますが、これくらいの弾頭にTNT火薬を乗せた場合、一区画を破壊する程度の威力があると言われており、ビル1棟は少なすぎると思われます。ヒドラジン(正確には、非対称ジメチルヒドラジン)による汚染被害は先にコメントしているように、機体が空中分解する可能性が高く、ほとんど心配はありません。墜落はほぼ確実に空中分解を起こし、酸化剤の抑制赤煙硝酸と混じり合えば自然発火するため、空中で燃え尽きたり、拡散する可能性が高いと思われます。一番心配なのは、1段機体を切り離した後、2段機体の点火に失敗したり、着火した後に故障して日本列島に墜落することです。しかし、この可能性も相当低く、心配する必要はさほどありません。1段機体が切り離される頃には、おそらく高度100km以上に達しており、すでに大気のほとんどない宇宙空間にいます。墜落がはじまるとロケットは傾き、想定外の力が加わることで2段機体と3段機体の接合部分が耐えられなくなって折れ、それぞれが回転しながら落下するでしょう。その後、機体の温度が上昇し、大気の圧力も増します。それによって機体が破損し、燃料と酸化剤は混ざり合って爆発するか、別個に燃えてしまうことになります。記事に中国の長征ロケット事故が引用されていますが、この事故は打ち上げ直後で燃料を満載したロケットが住宅地に墜落したのであって、搭載燃料が多い1段機体が日本の遥か遠くで分離されるテポドン2号には当てはまりません。日本人が心配すべきなのは、2段機体から上のロケットだけです。
19ページのイラスト図
これはかなり実状と違います。1998年のテポドン1号のコースが北海道上空を通ったように描かれていますし、2006年のテポドン号は1段機体とそれ以外の機体が日本海内に飛んだように描かれていますが、1段機体は北朝鮮の海岸近くの洋上、それ以外は陸地部分に落下したとみられています。来月打ち上げられるテポドン2号のコースは問題ありませんが、SM-3を搭載したイージス艦が秋田沖になく、PAC-3が東京に配置されています。イラスト図だから仕方ないといえばお終いですが、アメリカのニュース週刊誌はイラスト図でも信頼度の高いものを提供しています。日本の週刊誌もそうあって欲しいものです。
他にも気になる記述がありますが省略します。こうした報道を一々チェックするのは時間の無駄のようにも感じられます。他に時間を書けて取り上げるべき記事はいくつもあります。たとえば、F-22がエドワード空軍基地の近くに墜落する事件が起きています。しかし、週刊誌は多くの人が目にするので、あえて取り上げました。
ただ、この記事にはよい着眼点もありました。地方自治体の困惑について書いた部分は、テポドン2号問題の核心を突いています。非現実的な迎撃よりも、国民は政府が地方自治体にどんな情報を、どのタイミングで流すのかに注目すべきです。これができないと、国民保護法を生かすことはできません。2006年のテポドン2号打ち上げの際、日本政府は地方自治体に情報をほとんど提供できませんでした。今回はどうなるのか。それはミサイル攻撃の有事に対応できるレベルなのかに注目しています。
ところで、昨日、ようやくテポドン2号が発射台に設置されたという報道がありました。これでやっと安心しました。北朝鮮は今回は、かなり短い期間で打ち上げられると踏んでいるようです。やはり8日が打ち上げの最有力候補です。天候次第で、それよりも早まることがあるでしょう。