テポドン追跡にSBXレーダーは使用せず

2009.4.16



 military.comによれば、今月打ち上げられたテポドン2号の航跡を追跡する際、ロバート・ゲーツ国防長官(Defense Secretary Robert M. Gates)は最も強力な洋上型のXバンドレーダー(Sea-based X-band Radar: SBX)を使いたいという米北方軍ジーン・レナート空軍大将(Air Force Gen. Gene Renuart)の要請を却下していました。

 価格が9億ドルとされるSBXレーダーは2005年に配備され、弾頭とデコイ(囮弾頭)、スペースデブリ(人工衛星などの破片)を識別し、3,000マイル(約4,828km)離れた球場の野球ボールを識別する能力を持ちます。つまりニューヨーク港に配備されたSBXレーダーはサンフランシスコのAT&Tスタジアムの野球ボールを識別できるのです。SBXレーダーは大型のXバンドレーダーを石油プラットフォームの上に設置したもので、洋上を移動することもできます。実はこのSBXレーダーについて、以前にとんでもない間抜けな話を紹介したことがあります(記事はこちら)。その後、この問題は解決したのでしょうか?

 しかし、ゲーツ長官は、すでに多くの地上と洋上のレーダーとセンサーがこの追跡のために使われているという理由で、要請を却下しました。しかし、ミサイル防衛関係者はこの決定に不服なようで、記事には政権の決定に反対するコメントが載っています。最近までミサイル防衛局を率いていたヘンリー・オベリング退役空軍中将(Lt. Gen. Henry Obering)は、SBXレーダーはアジアに配備されているイージス艦やアラスカ州のコブラ・デーン早期警戒レーダー(Cobra Dane early warning radar)、航空自衛隊車力分屯基地(kmzファイル)に配備されている小型のXバンドレーダーよりも3〜4倍強力で、2008年2月に落下する人工衛星を追跡し、迎撃ミサイルを誘導したと主張します。

 このように、実戦がほとんど起こらない空軍の世界では、準実戦のような状況や性能試験、軍事演習のような機会は最大限に活用して、自らの宣伝を行いたいという心理が働きます。テポドン2号の打ち上げは絶好の機会であり、最新鋭のSBXレーダーによる解析を行い、それを大々的に宣伝したいのです。もちろん、機密にすべき部分はしっかりと伏せたまま、いかにSBXレーダーが凄いかだけを宣伝するわけです。レナート大将は、テポドン2号がアメリカや同盟国(日本)に向けられているという懸念からSBXレーダーを使う決断をしたと記事は言います。これも、大衆の不安感を利用してSBXレーダーを使うための方便のようなもので、レナート大将が日本のことを考えてくれる頼もしい軍人だと考える必要はありません。空軍の人は大抵そうなのです。そして、この決断は北朝鮮の反応を考慮した政治的判断だとか、人工衛星ロケットだという北朝鮮の主張を受け入れたためだという、暗に政権を批判するコメントも記事には載っています。いずれもミサイル防衛関係者で、こうした批判は予測できる範疇です。彼らは自分たちの前に立ちふさがる障害には何であれ反対するのです。

 この出来事を、政治家が真面目な軍人の進言を退けたと解釈するべきではありません。そんな話を信じるのは一部の純真すぎる軍事オタクか保守勢力だけです。事前に準備した装備は十分すぎ、情報の解析には支障は生じません。ゲーツ長官の判断は当然のことであり、むしろ評価すべきなのです。


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