海賊法案衆院通過も実状はさらに先へ

2009.4.26



 今日は日曜日ですが特別に更新します。先週、自衛隊に海賊対策を認める海賊対処法が衆院で成立し、参院へ送られました。これで国会は「世界から一人前の国として認めてもらえる方向へ一歩近づいた」と安心したことでしょうが、military.comに現行の哨戒型の海賊対策に対する疑問が紹介されました。

 ワシントンに戻ったデビッド・ペトラエス大将(Gen. David Petraeus)が議会で証言し、商業船を守るために海賊よりも早く走って阻止する方法は効果的ではないと述べました。大将によれば、各国が警備している海域はテキサス州の何倍もあり、海軍の能力で警備しきれないのです。国防総省は別の方法を検討していますが、まだ正式な計画は決まっていません。大将は下院委員会の質問に答え、「武装警備員に満たない防御的な備えは機能します。放水ホースは襲撃をより難しくします。海賊がRPGを装備していれば、放水ホースは効果がありません。だから、この見積もりを元にして別の方法を考えなければなりません」と、述べました。大将によれば、海軍は海運業者に「海賊が接近した時、船の速度をあげるのは効果があります。回避行動をとるのは、なおよいです。出航前に海賊が船にあがるのを可能にするハシゴを取り外すなら、もっとよい効果を得られます」と助言しています。ペトラエス大将は遠回しに武装警備員を乗船させるべきだと述べているのです。海運業界は船を武装することは、一部の港から寄港を禁じられる可能性があるため、我慢しています。米海運会議所の代表ジョー・コックス(Joe Cox)は「輸送船に武装した警備員を乗船させるのは、海賊が銃撃戦を期待しているのなら暴力を助長する恐れがあります。2週間前なら、答えは『船に銃は置かない』と答えたでしょう。現在の対応は『議論をしよう』です。これはその指示に従うことを強力に支持していません。しかし、現在の状況下では、我々は何かがなされなければならないことを知っています。」と述べています。

 現在の海軍艦による警備がおかしいことは、以前からこのサイトで指摘してきました。小型ボートに海軍艦で立ち向かうのは、どう考えてもこちらの装備が大きすぎ、小回りがきかないというものです。海賊対策そのものではなく、各国は海賊対策に参加することで、自国の名誉を高めたり、他の問題での対外交渉をやりやすくすることに関心があるという点でも、現在の海賊対策は歪んだものになっています。現在の海賊対策は一種の「正義ごっこ」なのです。

 この程度の話に日本は本気で関わるべきだと判断し、恒久法を制定して参加することにしたわけです。しかし、それはすでに効果が薄いとペトラエス大将によって明言されました。この警備を軍隊と民間軍事会社のどちらがやることになるのかは分かりません。しかし、軍隊がやることになれば、自衛隊にも分担が回ってくることになります。一つ考えられるシナリオは、洋上での対応を民間軍事会社が行い、陸上での海賊掃討を軍隊が行うことです。この場合、陸上自衛隊がソマリアに戦闘目的で派遣するよう要請がなされる可能性があると考えなければなりません。国会議員のみなさんは、そこまで考えて採決に望んだのでしょうか?。海運業界がハシゴを外しておくという、ごく基本的な対策すら取らず、海賊たちにやられ放題だったことに対しては、私はむしろ怒りすら感じます。まさか、こんな基本的なことをやっていなかったとは、私には想像もつきませんでした。これは、できることを無視して、海賊はテロではないにも関わらず、「テロの脅威」だけで海賊対策が盛り上がっていたことを示す具体的な証拠です。

 今回の決定がなされた背景には、日本版湾岸戦争シンドロームがあります。これは湾岸戦争に自衛隊を派遣できず、戦費提供だけに終わり、クウェートが戦勝と支援国への感謝のために掲載した新聞広告の中に日本の国旗がプリントされなかったことが与えた心理的ショックです。私にはこの程度のことでショックを受ける理由が分かりません。湾岸戦争を行ったブッシュ政権時代には、フットボールの試合で米海兵隊がカナダの国旗を上下逆さまに掲揚して式典に参加するという事件がありました。この時、ブッシュ大統領はテレビ出演までして非礼を謝罪しました。確か、クウェートの新聞広告の事件は単純なミスによって起きたことだったと記憶します。これがクウェートに文句を言うのならともかくも、自分に非があったと自虐的に自分を責めるのは無意味です。かかる鬱憤をどこかで晴らしたいというエネルギーが今回も炸裂し、またひとつ変な決断を下してしまったという感じです。いい加減に日本はこういう呪縛から逃れるべきです。「江戸の仇を長崎で」式の発想が軍事では災厄を招くことは周知の事実です。


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