「週刊現代」(5月2日号)がスクープとして「『8・15』北朝鮮発射、核実験」という記事を報じました。この週刊誌は4月4日号では「4月4日午前11時『テポドン日本列島直撃!』」と報じていました。
記事は、元CIA東アジア部長のアーサー・ブラウン氏と匿名の首相官邸関係者のコメントで構成されています。ブラウン氏は、2006年のテポドン2号打ち上げでブッシュ政府が北朝鮮政策を変更しなかったので、3ヶ月後に核実験を実行し、ブッシュ政権からテロ支援国家指定解除を勝ち取ったと述べます。今回も、今月のテポドン2号打ち上げでオバマ政権が方針を変えなければ、夏から初夏までの間に核実験を行うだろう、というわけです。これについて首相官邸関係者に確認したところ、「核実験と同時に、日本を標的にしたノドンミサイルの発射実験も行う」との見解を得たといいます。それも、終戦記念日の8月15日に行うと報じています。
4月4日号ではテポドン2号が日本を直撃すると報じていたのに、「週刊現代」は射程3,000km以上のテポドン2号は日本の直接の脅威とはならないと言い出しました。テポドン2号の性能がかなり知られるようになり、「テポドン日本直撃」では説得力がなくなったようです。しかし、射程1,300kmのノドンなら日本を攻撃できると言うわけです。
私はこの記事を信用しません。
まず、ノドンミサイルは既に実戦配備されたミサイルであり、その打ち上げは「発射実験」ではなく「発射演習」と呼ぶべきです。
また、テポドンにしろ、ノドンにしろ、核実験にしろ、北朝鮮が繰り返し実行することは以前から言われていることです。開発中の物は完成に向けて実験を繰り返す必要がありますし、実用化済みの物は定期的に訓練を行う必要があります。ノドンミサイルは2006年にテポドン2号と一緒に打ち上げられたとされる6発の中に含まれていたと推定されていますが、その後3年近くの間、打ち上げられていません。ミサイル部隊はミサイル打ち上げ手順を日常繰り返し演習しますが、たまには本当に打ち上げる訓練もする必要があります。北朝鮮軍はそうした実射訓練を滅多に行っていません。2006年に発射した時も、報道された情報によれば、6発のミサイルの着弾位置はそれまで信じられていた半数必中界に遠く及ばないほど離れており、私はむしろ衝撃を受けたものです。
北朝鮮には夏から秋にかけていくつかの記念日があり、これまでそれに合わせて核実験などを行ってきました。これは記念日のためにやっていると言うよりは、国威発揚のために実験を利用しているのです。しかし、終戦記念日に合わせて行ったという記憶はありません。それは、日本の植民地支配が終わった日も大事ですが、やはり建国に直接関連する行事がなにより大事だからでしょう。太平洋戦争が終わったあとは米ソによる信託統治が行われたため、国威発揚のためには一段劣るためもありそうです。記事は「これ以上の“佳日”はない」と書いていますが、私にはそうは思えません。
ブラウン氏の見解は政治的な見地からなされており、技術的な見地から考える人はまた別の見解を持つでしょう。こうした実験は技術の進歩に合わせて行われており、必ずしも政治目的と一致するわけではありません。首相官邸関係者も誰かが示されておらず、どこから手に入った情報かも分かっていません。「日本を標的にしたノドンミサイルの発射実験」という表現も曖昧です。読み方次第では、この発射実験自体が日本を標的にしているようにも読め、あたかも戦争状態であるかのように受け取れます。実際には、ノドンミサイルが日本を攻撃する能力を持っているということを表現したいのでしょうが、この表現では誤解を生みかねません。
記事はノドンミサイルの配備数を約150基としており、「これに核弾頭が搭載されれば、広島・長崎の悲劇が日本国内の150カ所で繰り広げられる」と書いています。150基しかミサイルがないのなら、これを全部日本に向けて使うことは最悪の戦略です。核ミサイルを使い果たせば、本土防衛で使えないからです。戦力の予備をすべて使い果たすような無茶な戦略はあり得ず、核戦争の正しい姿を表現しているとは言えません。
マスコミは正確な報道を行うべきです。現状では、日本のマスコミはアメリカのそれよりも半世紀以上遅れています。アメリカもかつてはひどい状況でしたが、ここ百年くらいで報道のルールを大きく改善し、少なくとも批判に値するレベルに達しています。日本では依然としてセンセーショナルな報道が横行しており、これは早急に改善されるべきです。