テポドンが「弾道ミサイル」と呼ばれた理由

2009.4.6



 今回のテポドン2号の打ち上げについて、政治的な側面について考えてみます。

 今回、「人工衛星ロケットの打ち上げを名目に弾道ミサイルを打ち上げようとしている」という見解が広まりました。これは日本政府の意向をマスコミが鵜呑みにした結果と考えられます。ニュース番組によっては「人工衛星を搭載したと見られる弾道ミサイル」という表現を用いたところもありました。また、テポドン2号が発射されると「飛翔体」という表現に変わりました。

 名称がコロコロと変わった原因は、2006年の国連決議1718号に不備があるためだと考えられます。決議文中には「弾道ミサイル」の発射を禁止すると書かれていますが、人工衛星ロケットとは書かれていません。(外務省による日本語訳はこちら

2 北朝鮮に対し、いかなる核実験又は弾道ミサイルの発射もこれ以上実施しないことを要求する。
5 北朝鮮が、弾道ミサイル計画に関連するすべての活動を停止し、かつ、この文脈において、ミサイル発射モラトリアムに係る既存の約束を再度確認することを決定する。

 宇宙開発は平和的なものである限り、各国の判断で行えます。このため、人工衛星ロケットの打ち上げまで禁止するという国連決議を採択するのは難しかったはずです。もともと、テポドンロケットは人工衛星ロケットとして打ち上げられてきましたから、北朝鮮は人工衛星ロケットと主張することができました。現在ロケット技術を持っている国の多くは、宇宙の平和的開発と軍事ミサイルの開発の両方を同時に行ってきましたから、実は北朝鮮の考え方は特別なものではありません。

 テポドン2号は形態としては人工衛星ロケットです。しかし、弾道ミサイルの技術開発のために、テポドン2号の技術を用いることもできます。テポドン2号は軍事ミサイルとしては使うのは難しいのですが、弾道ミサイルの技術が向上する点は懸念しなければなりません。

 しかし、テポドン2号を弾道ミサイルと主張したことで、日本やアメリカは国連の場で北朝鮮を追求する手段の一部を失ったと、私は考えます。国連決議はどこかで妥協しないと実現しないものとなるでしょう。今後は、テポドン2号の打ち上げを証拠とするのではなく、イランとの協力関係など、弾道ミサイルの開発を示す直接的な証拠を狙うべきだと考えます。北朝鮮のように余裕のない国は、可能なものは何でも狙うのです。今回、ウォンサンに短・中距離ミサイルを準備しながら発射しなかったのは、とりあえず準備だけしておいて、各国の反応をみて最終的な決断を下したためでしょう。弾道ミサイルや人工衛星ロケットの開発、経済支援など、あらゆることを狙っているのであり、それらのどれかだと考えるべきではありません。特に、今回は人工衛星の軌道投入に失敗しており、「ロケットかミサイルか」という問答は今後も続けられそうです。また、国内メディアには2段機体が軍事ミサイルに向いた固体燃料ロケットだと書いているところもあります。そんな証拠があるとは思えませんが、ミサイル防衛の正当性を強調するためにいわれているのかも知れません。こうした様々なバイアスにより、問題の本質が見えにくくなっていくという問題もあります。


Copyright 2006 Akishige Tanaka all rights reserved.