米軍がアフガンで白リン弾使用の疑い

2009.5.12



 military.comによると、カルザイ大統領が125〜130人が死亡したと主張した米軍の砲撃で白リン弾を使ったとの申し立てがあり、人権団体「アフガン独立人権委員会(the Afghan Independent Human Rights Commission)」が調査中です。米軍は白リン弾の使用を否定しています。

 負傷者を手当てしたファラ州(Farah province)の医師は、その内の14人がかつて見たことのない異常な火傷を負っていたと主張しています。白リン弾はタリバンが用いた可能性もあり、米軍は過去2年間の内、タリバン戦士が少なくとも4回白リン弾を使用したことがあると主張しています。西アフガンにあるヘラート地域病院(the Herat Regional Hospital)のムハマッド・アレフ・ジャラリ医師(Dr. Mohammad Aref Jalali)は5人の患者を扱い、彼らの火傷が爆弾で使われる化学物質の結果であり、その種類は不明だと述べています。米軍はファラ州のバラ・バルク地区(Bala Baluk district)にある2つの村のアフガン人の負傷は手榴弾か爆発したプロパンガスのタンクによるものだと説明しています。ジャラリ医師は怪我が石油やガスボンベによって燃えた家によるものではないと述べています。国連も現段階では結論を出していません。military.comによると、米軍はタリバンが迫撃砲で白リン弾を撃った12件の事例など、44件の事件を指摘しました。この内38件は米軍がいる東アフガンで、6件は他の地域で起きています。この主張は人権団体ヒューマン・ライト・ウォッチ(Human Rights Watch)が、3月14日にカブール北東にあるカスピア(Kapisa)で、白リン弾によりラジア(Razia)という8歳の少女が死亡した情報を公開するように米軍に求めた直後になされました。

 被害者の傷の状態など、直接的な情報はないので、事実関係の判断はできませんが、医師が通常の火傷ではないと言っているのは気になります。米軍は以前にも戦闘の内容について、当初の発表をあとで訂正したことがあり、現在の見解が誤っている可能性があります。あれだけ問題視された白リン弾ですから、現在、米軍が安直に使用するとは思えませんが、白リン弾は通常爆弾で効果がない場合に使用されることを考えると、通常爆弾による爆撃が功を奏さず、次段階として選択された可能性は否定できません。逆に、医師が別の化学物質による火傷を白リン弾と疑っただけということも考えられます。ここはどちらかと決めつけずに、さらなる検証を待つしかありません。

 それから、spacewar.comがパキスタン軍とタリバンの戦いについて報じており、その中に重要な数字がいくつかあったので紹介します。パキスタン軍の主張によると、2002年以来、1,500人以上の兵士を戦いで失い、数千人のタリバン戦士を殺害しましたが、北西辺境地域の半分はタリバンの手にあります。パキスタン軍の常備軍は約700,000人、アフガニスタン国境付近には100,000人が配置されています。スワト峡谷で活動しているタリバン戦士は最高5,000人と、パキスタン軍は見積もっています。

 1,500人以上というパキスタン軍の損失も、数千人という漠然としたタリバンの損失も、どうも本当らしく聞こえてこないのが気になります。スワトのタリバンが5,000人なら、もう半分は死んでいる計算です。戦士が補充されたにしても、タリバンが自由に活動できているのは、実際に戦果があがっていないからだと言わざるを得ません。とにかく、アフガンもパキスタンも実状がよく分かりません。こうした場合、現地で活動する人権団体が情報を持っていることが多いので、彼らの情報を収集してみるのがよいかも知れません。時間が取れたら、試みてみたいと思います。

 なお、アフガンの米軍司令官が交代します。ロバート・ゲーツ国防長官は約11ヶ月司令官を務めたデビッド・マッキアマン大将(Gen. David McKiernan)を解任を決めました。後任はスタンレイ・マクリスタル中将(Lt. Gen. Stanley McChrystal・Wikipediaの解説)の予定で、副官はデビッド・M・ロドリゲス中将(Lt. Gen. David M. Rodriguez)です。2人は上院が承認すれば正式に着任します。


Copyright 2006 Akishige Tanaka all rights reserved.