コメントしていませんでしたが、15日に防衛省がテポドン2号に関する報告を公表しました(発表内容はこちら)。それを報じた産経新聞の記事には驚かされました。これについて、記事の該当部分を取り上げてコメントします。(以下、太字部分は産経新聞よりの引用)
1段目と2段目以降はいずれも北朝鮮が設定した危険区域内に落下しており、命中精度の高さが浮き彫りになった。
産経新聞が「命中精度」という言葉の意味を誤解しているのは明白です。普通は弾頭部分が着弾する精度を弾道ミサイルの命中精度と呼ぶのですが、産経新聞は1段機体と2段機体以降が落下した精度(?)と呼んでいるように思われます。防衛省は2段機体(2段目)以降は分離しないまま落下したと発表したようですが、チャールズ・ビック氏は2段機体と3段機体は分離されたと分析しています。その事実認識の差はここでは置いておくとして、2段機体が分離せずに落下したということは、本来の設計通りには飛ばなかったということであり、よって命中精度を評価するには不適切だと考えるべきです。
テポドン2号は約6000キロの最大射程で撃った場合、高度は約1000キロに達する。今回はミサイルの高度が最高高度に近い日本通過時点で370〜400キロにとどまっており、「あえて最大射程で撃たず、命中精度を試した」(防衛省幹部)との指摘も出ている。
この幹部が誰かは不明ですが、彼はどうしてもテポドン2号を弾道ミサイルにしないと気が済まないようです。高度だけで、打ち上げの目的を判断することはできません。人工衛星を打ち上げる場合、大抵、最初に高度200〜500kmの低軌道(静止衛星の場合、200〜300km)に乗せ、そこからさらに軌道を変えて狙った軌道に投入します。この作業ができるかどうかが、ロケットの能力評価となります。テポドン2号はそれに失敗したのですから、評価は低くなるのが本当です。また、太平洋に派遣した観測船は故障で引き返したと報じられており、打ち上げに成功したとしても、着弾精度の観測は行えませんでした。なにより、打ち上げ前に衛星写真が公開され、弾道ミサイルにつきもののノーズコーンが取り付けられていなかったことが確認されている以上、この主張はまるで成り立ちません。
記事には、他にも気になる記述があります。当初、秋田県西約280kmとされた1段機体の落下地点は320kmへと、40kmも修正されました。観測当時で40kmも誤差があるのなら、迎撃ミサイルを正確に目標に誘導できるのかという疑問が湧きます。また、韓国政府はテポドン2号の最大到達高度を485kmと発表しており、日本の解析結果とは85〜115kmもずれています。いずれが正しいのかに関する考察は記事には書かれていません。さらに驚くのは、次の記述です。
ミサイルは外見などから新型ブースターを1段目、中距離弾道ミサイル「ノドン」を2段目に使ったテポドン2号か、その改良型と分析。外見上3段式にみえる3段目に推進装置が付いていたかは断定を避けた。
3段機体がダミーだったことを示唆する記述です。防衛省の発表ではそこまでは述べていませんが、幹部への取材から得られた情報かも知れません。しかし、莫大な費用がかかるロケット打ち上げに、ダミー機体を使うとは考えられません。
防衛省は現在も、2006年に打ち上げられたテポドン2号を2段式ロケットとしており、今回打ち上げられたのは、2006年と同型か、それを3段式に改造したものとしています。
日本のミサイル防衛に関しては、もはやまともな議論はできないのだと思います。昨今の新型インフルエンザ騒動もそうですが、目の前の脅威に振り回され、そういう日本社会について顧みないというのが、現代日本の病です。いずれ、こうした態度が大きな間違いにつながると覚悟しておくべきです。