タリバンのテロ活動に関するレポート

2009.5.23



 昨日発行された日本赤十字社のニュースレターによると、パキスタン国内の難民は登録されただけで232万1,749人にのぼっています。先日の報道と比べて一桁違っています。

 パキスタン赤新月社や赤十字国際委員会が対応しており、日本赤十字社も173,620スイスフラン(約1,500万円)を拠出し、医師を派遣しました。アメリカは先日、1億1,000万ドル(約105億円)の拠出を決めています。しかし、200万人を超える難民に十分対処できるかは不明です。

 BBCがペシャワールから80kmの場所から、スワトから逃れてきた人たちから聞いた目撃談を掲載しています。それによれば、タリバンの戦士は斬首や無警告での発砲・殺害を行っています。彼らは子供たちが学校へ行くのを妨害し、青少年を誘拐しています。ある男性は、斬首された18歳の若者の遺体を自分の手で埋葬したと証言し、タリバンを批判しました。他の目撃証言は様々な状況を知らせていますが、重複しているものも多いので省略します。タリバンは警察を標的にしており、すでに数百人が殺害され、本人や家族が誘拐されたりしています。カーリッド・アジズ前北西辺境地域(North West Frontier Province)書記長は、15〜16人と見積もられるタリバンの指導者を識別して、切り離す必要があると述べています。一方、パキスタン軍でタリバン掃討を指揮してきたタリク・カーン将軍(Gen Tarik Khan)は、そのような力はパキスタン軍にはないと主張します。ワシントンでは、すでにパキスタンに提供した軍事費はどこに消えたのかという議論が湧き起こっています。

 昨日の武器の流用疑惑と同じく、かつてイラクで見られたパターンがパキスタンで再び繰り返されています。軍事援助費はいわば降って湧いた金であり、「悪銭身につかず」のたとえの通り、簡単に浪費されてしまうものです。提供する側は、これでタリバンと戦って欲しいと願って渡すわけですが、現場では金の亡者が群がって、大義名分をつけて奪い去るものなのです。アメリカでは「パキスタンは嘘つきだ」という意見も湧き起こっており、現状についてようやく認識がなされつつあるようです。しかし、これはイラクですでに経験済みのことなのです。今後も、イラクで起きたことがパキスタンで繰り返されることになるでしょう。

 現場での目撃談はタリバンの動向に関する情報にはなりますが、戦況を判断できる情報ではありません。パキスタン軍の活動に関する情報は、記者が現地に入れないのと、パキスタン軍が情報を出さないのとで明確ではありません。しかし、パキスタン政府がは政界から軍までがバラバラで、一貫した行動が取れないことだけははっきりしています。このまま行くと、状況が誰の目にも明らかになった時には手遅れ、ということになりかねません。

 ところで、田原総一朗氏の拉致被害者に対する発言に関して、田原氏が文書で「乱暴な言い方でご家族や関係者のお心を傷つけたことをおわび申し上げます」と謝罪し、拉致被害者の家族会などが「『乱暴』などという表現ではすまされない人命軽視の暴言で、重大な人権侵害」とする共同声明を出したといいます。田原氏は形ばかり謝ってみせたわけです。パキスタンで重大な状況の変化が起きている中、このようなトラブルを起こすジャーナリストがいること自体、日本が島国で海外からの影響を受けずに済んでいる証拠です。もし、対馬海峡が隆起して朝鮮半島とつながったら、日本は陸地でヨーロッパまでつながっていることになり、日本人の政治意識は大きく変わるはずです。海洋が存在するお陰でかなり楽をしているという意識を持ち、より理想的な政策がとられる必要があります。ジャーナリズムは、別の立場から、それを監視するのが役目のはずです。

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