読売新聞が報じた防衛省がテポドン2号がハワイに向かうと予測した記事がmilitary.comでも報じられました。
アメリカも自国が危ないと思うと、急に理性を失います。この記事の掲示板には感情的な意見ばかりが書かれています。しかし、舞水端里から発射したテポドン2号はハワイに向かったのではなく、真東に向かった結果として、ハワイ西方海上を通過しました。舞水端里よりもさらに南側にある東倉里からテポドン2号を東に向けて打ち上げると、舞水端里から打ち上げた場合よりも、さらにハワイから西に離れることになります。つまり、4月5日の打ち上げの際よりも、アメリカは安全なはずなのです。この事実は簡単に導き出されるはずですが、「ハワイに向かう」と記事に書かれた途端に、それは「ハワイが攻撃される」というのと同じ意味になり、大衆はそうした誤った情報を信じ込むのです。
前回書きませんでしたが、防衛省が言う「北朝鮮が南に向けて打ち上げない理由」は噴飯ものです。防衛省は「1段目のブースターを切り離すと、沿岸に落下する中国の反発を招く」と述べています。記事に掲載されたイラスト地図を見ても分かりますが、これはかなりの無理筋なのです。1段機体は中国よりも韓国や日本に近い場所に落下します。4月の打ち上げで1段機体が秋田沖に落下したことを思い出し、東倉里から打ち上げた場合、どの辺に1段機体が落下するかを想像してみてください。中国はよい顔はしませんが、北朝鮮が止めようと思うほど重大な問題にはならないことが分かります。北朝鮮にとって真に重大な問題とは、本土の中を通過するハワイ向きのコースで打ち上げて、2006年7月5日の打ち上げの時のような墜落が起きた場合、「テポドン2号大失敗!」の速報が世界を駆けめぐることです。墜落する場所によっては、大惨事になるでしょう。そもそも、東向きのコースへ打ち上げるのでは、大金を投じて東倉里発射施設を建設した意味がありません。防衛省の見解は軍事オタクが並べたがる理屈みたいなもので、評価に値しません。
軍事ロケットの専門家で、防衛省の見解に賛成する人がいるかどうか、マスコミは追っかけ記事を書くべきでしょう。いや、民間用ロケットの専門家だって、防衛省の見解に首を捻るはずです。今回の記事は日本のミサイル防衛のレベルに強い疑問を生じさせました。しかし、この問題が国政レベルで語られることはないでしょう。国会で問題にされることもなく、静かに忘れ去られるはずです。事態は深刻です。大金を投じて導入したミサイル防衛システムは、兵器の能力にも疑問がありましたが、運用の前提となる情報分析の能力にも疑問を指摘せざるを得ないのです。特に、ミサイル防衛は、弾道ミサイルの攻撃が短時間で攻撃が行われて決着するため、ミスが許されません。まして情報分析がこのレベルでは、ミサイル防衛が成功する見込みはありません。