北朝鮮がテポドン2号の打ち上げ準備を進めていますが、報じられる情報を見ていると、その狙いがさっぱり分かりません。
北朝鮮は、今月13日〜14日の午前8時〜午後7時まで、平壌の北西約45kmの海域(沿岸から約4.4km、南北に約3.6km、東西に約3km)を航行禁止区域に指定したといいます。これはテポドン2号の1段機体が落下する場所としては不適当で、打ち上げとは関係があるとは考えられません。まず、航行禁止区域は東倉里発射施設から80km足らずであり、前回の打ち上げで1段機体が落下した距離から数段近いのです。防衛省の報告では1段機体は発射台から約540kmの海域に落下しています。また、沿岸から約4.4kmでは陸地に近く、危険すぎます。これは別の目的のために行われたことだと考えた方が合理的です。砲撃演習か何かではないでしょうか。2段機体が落下する制限区域が宣言されていない点も、テポドン2号と関係がないことを示唆しています。また、これは北朝鮮の漁業関係者に向けて指示されたのを日本の海上保安庁がキャッチしたのであり、北朝鮮が国際海事機関(IMO)に報告したものではないのでしょう。こう考えれば、これらは何か別の目的と推定するのが妥当です。この日程ではテポドン2号の準備が短すぎる点も気にかかるところです。
報道によると、東倉里発射施設はまだ建設途中だといいます。朝鮮日報のユ・ヨンウォン軍事専門記者の記事によれば、施設は90%が完成しているということです。あえてこちらを選んだのには、それなりの理由があると推定できます。各メディアが様々な推測を出していますが、朝鮮日報が比較的正確な理由を報じています。日本上空を通過するのを避け、日本を刺激しないためという理由も書いてあり、「時間および危険の負担を減らすことができる」とも書いてあります。その具体的な理由は書いていませんが、東倉里発射施設には、屋内でミサイルを組み立てられる工場があり、完成後、移動式の発射台でタワーまで移動して打ち上げられるという意味でしょう。屋内で作業できるので、夜間も作業を中止しなくて済みますし、それを情報収集衛星に撮影されることもありません。完成したら、さっさと打ち上げて世界を驚かせることができます。そこで気になるのが、北朝鮮が国際海事機関に航行制限区域をまだ届けていないらしいことです。国際民間航空機関(ICAO)のウェブサイトにも、それらしい記事はありません。すると、今回は国際社会へ航行制限区域を通告せず、抜き打ち的に打ち上げを実行するのかも知れません。そうすることで、国連決議への抗議であることを鮮明にできます。夕方のテレビニュースで、東倉里でエンジンテストをして舞水端里で打ち上げると話すキャスターがいましたが、こんなことはあり得ません。テスト施設は舞水端里にもありますが、東倉里でもエンジンだけのテストしか行えず、完成したロケットの燃焼エンジンはやらないのが普通です。
さらに東側の海岸にある江原道旗対嶺で、ノドンの発射準備が進んでいるとの情報があります。これ自体は予測できることですが、東亜日報が「北朝鮮軍が西海艦隊司令部傘下部隊所属の警備艇をはじめ、主要海岸砲部隊に、普段の2倍以上の実弾と砲弾を備蓄するよう指示した、という報告が入った」「北朝鮮軍が最近、西海(黄海)の草島(チョド)海上で合同射撃訓練を集中的に行っている」「高速上陸艇を利用した上陸訓練も行われるなど訓練のレベルをエスカレートさせている」と報じており、韓国に対する挑発的な軍事行動の可能性が出ています。日本に対する上陸作戦は、北朝鮮軍の能力からして無理ですが、韓国沿岸に対する強襲攻撃はあり得ます。しかし、全面戦争は無理なので、沿岸を攻撃して引き揚げるような内容になりそうです。
これと関連した動きかも知れませんが、2ちゃんねるで予備自衛官に待機指示が出ているとの情報があります。しかし、これは別途確認が取れない限り信じるのは危険でしょう。匿名掲示板は戦争の際に最も手軽に謀略に利用できるメディアです。もし本当に秘密裏に自衛隊を新潟に集結させているのなら、防衛省のやり方は最悪です。前回のテポドン2号打ち上げの際には、存在しない危機に対して備えをする態度を見せ、国民に誤った危機意識を植え付けました。今度は部隊を動かしているのに、それを秘密にしています。防衛省のウェブサイトには、何の告知もありませんし、防衛大臣からの声明も出ていません。本当に危機があるのなら、それを正確に国民に告知して、安全を図らなければなりません。新型インフルエンザの場合と同じで、役所が突っ走り、国民が不在なのでは、真の危機に際して混乱があるだけです。ロバート・ゲーツ国防長官は、現状で在韓米軍に増派する計画はないと明言しています(記事はこちら)。北朝鮮軍は110万人を擁しますが、在韓米軍28,500人と合わせると、韓国側の戦力は680,000人であり、北朝鮮軍を十分に撃退できると考えているのです。
北朝鮮の動きは、その意図が理解しにくいものになりつつあり、これまでの挑発行為とは一線を画しているように思われます。その背後に国内の大きな混乱がある可能性を示唆しています。オバマ政権は北朝鮮の恫喝には決してのりません。ロシアも北朝鮮を支持しなくなりました。やはり、中国が最後の鍵を握っているのです。