アメリカと北朝鮮は舌戦の真っ最中

2009.6.23



 military.comによれば、オバマ大統領は北朝鮮に関するどんな偶発的出来事にも対処できると述べました。一方、military.comの別の記事によると、北朝鮮はジョン・S・マケイン号が追跡しているカンナム号が攻撃されれば反撃すると警告しています。

 どちらも口で言っているだけで、実質的には危機は高まっていません。前からここで述べているように、舞水端里と東倉里のどちらから真東に発射しても、テポドン2号はハワイの遥か西方を通過します。現在の北朝鮮の技術では、テポドン2号をハワイに狙って落下させることはできません。故障で軌道が逸れてハワイに落ちる可能性はゼロとは言いませんが、考えなくてよいほど小さな可能性に過ぎません。迎撃・監視システムをハワイに配備したのはむしろ心理的な配備といえます。ゲーツ長官も、前回は洋上型Xバンドレーダーの配備を必要ないと言いましたが、今回は軍に妥協してみせたようです。防衛省は、「アメリカがやったのだから」という理由で、前よりも大手を振ってPAC-3を展開するでしょう。こうして、迎撃ミサイルの展開に国民が慣れていくことが防衛省にとって一番の利得なのかも知れません。「いやぁ、あの時、迎撃ミサイルを配備してくれたから、安心していられたよ」と考える国民が増えれば、ミサイル防衛への予算配備もやりやすいというものです。

 実は、こうした対処は歴史上、前例のないものです。かつて、ロシアや中国が弾道ミサイルの打ち上げテストを行った時、このように激しい対応をしたことはありません。前提のないことですから、当然、先の予測もしにくいわけですが、このことを指摘する声はなぜか聞きません。今行われているのは、結末を予測しがたいチキンレースなのです。

 一方、カンナム号に米軍が実力で乗り込むことはできません。当該国の承認なしに容疑がかかる船に乗り込むことはできないというのが国連決議です。北朝鮮はアメリカの要請をはねつければこと足ります。しかし、断固とした姿勢を見せておく必要があるから、反撃すると警告しているだけです。

 私はこうした展開を白けきった気分で見ています。危機感たっぷりに報じるマスコミが出てくるでしょうが、それらは事実を反映していません。しかし、先が読みにくいという点で、現在の状況は楽観視できないと考えています。北朝鮮のロケット開発にはイランが関係しています。そのイランは、先の選挙の不正に関して国内が混乱しています。22日には護憲評議会が、国内計50都市で投票者数が有権者数を上回る異常が見つかったと発表しました。この発表によって、ムサビ氏支持者は一層政府に対する抗議を強めるでしょう。その結果がどうなるかによってアフマディネジャド大統領の進退に及び、北朝鮮との技術支援関係に変化が起きるかも知れません。あるいは、同様に北朝鮮と核開発に関して関係があるパキスタンは、タリバン掃討に集中しており、アメリカとの友好関係を維持するためにも北朝鮮とは協力しにくい状態になっています。これらがどのように北朝鮮のロケット開発に影響するかが問題です。つまり、この問題には変動する要素が多すぎて、結末を予測しにくいのです。

 今のところ、テポドン2号は性能の悪いロケットに過ぎません。手本にしたロシアや中国のロケットと比べても、1段機体の噴射炎の勢いは弱く、エンジンの性能が悪いことが窺えます。しかし、いつかテポドン2号はまともなロケットになるかも知れません。そうして北朝鮮の技術レベルがあがると、非常にやっかいなことになります。だから、迎撃するしないという話ではなく、北朝鮮の弾道ミサイル開発をどう遅らせるかが議論の焦点になるべきですが、現状はまったく違うことに話題が集中しているのです。


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