テポドン2号に関する科学的レポート

2009.7.1
追加 2009.7.2



 thebulletin.org(Bulletin of the Atomic Scientists)が、4月のテポドン2号打ち上げに関する科学的レポートを報じました。著者はデビッド・ライト(David Wright)とセオドア・A・ポストル(Theodore A. Postol)です。

 このレポートにはテポドン2号の仕様について、いくつもの重要な推定を試みていますが、ここでは特に重要な部分だけを取り上げます。関心のある方は全文を読み、記事中のリンクも参考にされるとよいでしょう。

 レポートは3つの要旨から構成されています。下の要旨は全訳です。

要 旨

  • 北朝鮮が4月5日に実験した打上げ機「銀河2号(訳註 テポドン2号の北朝鮮名)」は、北朝鮮の以前のロケットよりも重要な進歩を示しています。
  • 特に、それは北朝鮮が弾道ミサイル用に変更した場合、アメリカ大陸に1トン以上のペイロードと共に到達させる能力を持っているでしょう。
  • しかし、銀河2号の主要な部品がロシアやその他の国から手に入れているのなら、北朝鮮の国産ミサイル開発計画は一般に考えられているよりも、遙かに限定されるかも知れません

 以下にポイントを列挙し、その後に私見を述べます。

 銀河2号に搭載された人工衛星と展開装置と3段機体に取り付けられた構造物の総重量は300kgと推定されます。

 2段機体と3段機体は北朝鮮が過去に打ち上げたロケットよりも遙かに進んだ先端技術であることを示しています。これらの技術が北朝鮮で開発されたことは非常に考えにくいことです。

 1段機体にはノドンミサイルのエンジン4基が使われています。

 2段機体の形はロシアの原潜用弾道ミサイルSS-N-6とまったく同じです。1990年代に北朝鮮はロシアからSS-N-6若干数を購入し、中距離ミサイルとして使うように改造したという報告があります。2005年にイランが北朝鮮からSS-N-6を18機購入したと報告されています。SS-N-6の燃料は非対称ジメチルヒドラジンと四酸化二窒素です。これはなぜ2段機体の直径が1段機体のよりも小さいかを説明します。1段機体の直径は運搬する燃料の量によって決定されます。2段機体の直径を1段機体と同じ設計することは、より長く、細い機体よりも2段機体の重量を減らします。しかし、北朝鮮が2段機体を、軽量のこの既存の進歩した機体を利用したのなら、デザインは意味を持ちます。

 3段機体はイランのサフィール2(Safir-2)の上段の機体に酷似しています。この機体は小型のステアリングエンジンを持ちます。

 テポドン2号が軽量の人工衛星を搭載するために開発されていた場合、1,000kgの重量がある第一世代のプルトニウム核爆弾は運搬できないかも知れません。しかし、核爆弾を搭載できる場合、テポドン2号はアラスカ州、ハワイ州、本土の48州の半分に到達する10,000〜10,500kmの射程を持つでしょう。1,000kgのペイロードを搭載して、1段機体と2段機体によって打ち上げた場合は、7,000〜7,500kmの射程を持つでしょう。この場合、テポドン2号はアラスカ州とハワイ州の一部に到達し、本土には到達しません。

 再突入の速度とステアリングエンジンによる誘導では、10kmかそれ以上の着弾誤差を生じさせるでしょう。

 北朝鮮は再突入シールドの実験は行いませんでした。テポドン2号にはノドンよりもずっとよい断熱材が必要です。断熱材の技術と素材は40年以上も進歩してきており、北朝鮮が適切な再突入シールドを開発するのは可能でしょう。断熱材はミサイルを不正確にする主要な原因です。
 
 SS-N-6を北朝鮮が自前で製造できる可能性もありますが、ありそうにない話です。SS-N-6には、高度に最適化されたエンジン、非常に活動的な推進燃料、アルミ合金製の機体が必要なためです。


 以下は私の見解です。

 このレポートの推論はミサイル専門家のチャールズ・ビック氏の見解ともかなり共通しており、政治的なバイアスがかかっているようにも見えません。観察に基づいた見解といえます。

 ここで示された見解は、もちろん推論を含んでおり、最終的な結論ではありません。しかし、2段機体と3段機体についての見解は重要です。ビック氏の分析でもSS-N-6がそのまま使われている可能性は指摘されてきました。このレポートは3段機体についても言及し、イラン製との見解を示しています。そして、外国の技術や製品が入手できなければ、テポドン2号は製造できないという部分は非常に重要です。私も以前から、テポドン2号は既存の技術の使い回しで作られていると見てきましたが、想像以上に当たっていたことで、少し安心しました。

 着弾誤差が10kmもあるというのは致命的です。これは最良の場合でしょうから、有事に緊急的に打ち上げる場合、結果はもっと悪くなるのが歴史的な事実です。これだけ外れると、北朝鮮も自信を持って使うことはできません。

 このレポートは、ミサイル防衛にだけ力を入れるのではなく、ロケット関連技術が北朝鮮に流出するのを防ぐための組織を設ける必要性も示唆しています。日本の経済制裁は単に貿易額だけ見て悲観的になるべきではなく、ロケット技術の流出防止に目を向けるべきです。また、ロシアなどにも技術や物資の流出を止めるよう、交渉を行うことが、政治の眼目とならなければなりません。

追加

 チャールズ・ビック氏はこのレポートにいくつかの誤りがあると見ています。たとえば、3段機体はサフィール2ではなく、中国の固体エンジンを修正したものだとみています。ビック氏は以前から3段機体は固体エンジンだと主張してきました。この記事とビック氏のレポートと比較して読むと興味深いことが分かるでしょう。


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