spacewar.comによれば、タリバンは剣の攻撃作戦に対抗するため、「鉄の網作戦」（Operation iron net）を開始したと宣言しました。「鉄の網」はパシュトゥーン語では「フォラディ・ジャル（Foladi Jal）」と発音します。
タリバン広報官は、鉄の網作戦はIEDによる攻撃やヒット・アンド・ラン型の攻撃を含むと述べました。このためか、military.comによれば、火曜日に米軍の軍人４人が戦死しました。２人はアフガニスタン南部で道路脇に仕掛けられたIEDで、１人は東部で銃撃戦により死亡しました。詳細は不明です。南部ではほかにカナダ兵２人とイギリス兵１人が死亡しています。
military.comによれば、アフガン駐留の米軍とNATO軍の司令官、スタンリー・マクリスタル大将（Gen. Stanley McChrystal）は、新しい指示を発表しました。それは民間人の犠牲を避けることと、「タリバンは軍事的に我々を打倒できませんが、我々は我々自身を打倒できます」という奇妙な警告でした。
家屋に対する空爆と襲撃は制限された状況だけに限られ、自己防衛のためや、ほかの選択の余地がない時だけ許可されます。アフガン人の家屋への進入は地元当局の指示を受けたアフガン保安軍によって行われます。これは地元女性に対する「他に類を見ない文化的な感受性」を考慮に入れたものです。さらに、兵士はモスクや宗教的、歴史的な場所に対しては、自己防衛の場合を除いては進入したり攻撃することが認められません。マクリスタル将軍は、次のように述べています。
「これは通常の戦闘とは異なっており、地形の確保や敵軍の損耗のような伝統的な手法以上に、我々がどう戦うかが結果を左右するでしょう。我々は民間人の死傷者を生んだり、極端な損害を起こして人々を遠ざけることで戦術的な勝利を得て、戦略的な敗北を被るという罠を避けなければなりません。大衆の支持が得られないことは、この闘争の両サイドにとって重要だという明確な認識は、包括的な作戦上の課題です。タリバンは軍事的に我々を打倒できませんが、我々は自分自身を打倒できます」。マクリスタル大将は武力行使を制限することが兵士に危険を与えることを認めましたが、強硬手段が大衆を阻害することは「遙かに大きな危険を生むだろう」と述べました。
タリバンが自分たちの作戦に名前をつけたのには苦笑させられました。これまでそうしたことはあったのかも知れませんが、タリバンが作戦名を公表したのは、私には初耳です。しかし、要するにこれまでのゲリラ戦を継続するということで、大した変更はありません。この作戦はこれまでと同じ程度の戦果をあげ続けるはずです。すでに、その最初の戦果が出ています。
気になるのはマクリスタル大将の新方針です。大将が言う「地形の確保」「敵軍の損耗」は、伝統的な戦術の基本方針です。戦いに勝つためには、「敵軍の損耗」を目標にしなければなりませんが、そのためにはそれを直接の目標にするよりは、まず「地形の確保」を考える方が効果的だとされています。戦術、戦略上重要な地形は「緊要地形」と呼ばれており、そこを占めることで敵軍への「戦力の集中」を容易にし、「敵軍の損耗」を達成するわけです。たとえば、見晴らしのよい高地は敵を監視したり、砲爆撃を誘導するために必要ですし、一般的に低地よりも高地の方が戦力を発揮しやすいのです。当サイトで紹介している戦術ゲーム「TacOps」は、敵を殲滅して多くのポイントを稼ぐことを目標としています。それは「損耗ポイント（attrition point）」として表現されており、まさに「敵軍の損耗（attrition of enemy forces）」を示すものです。そのためには、地形をうまく利用することに尽きます。これが伝統的な地上戦の戦術なのです。ところが、そればかりを考えていると、地元住民のことを無視しがちになります。住民は作戦の邪魔になる障害物に過ぎず、被害を軽視しがちになります。タリバンは大衆に溶け込んだ武装組織であり、彼らを打倒するには大衆と切り離すしかありません。このことは、2001年にアメリカが最初にアフガンを攻撃して以来、私が繰り返し指摘してきたことですが、米軍はまったく考慮してきませんでした。しかし、あらゆる方法を講じても成果が出ないことを自覚して、ようやく方針を変える気になったのです。戦争が長期化していることもあり、この方針転換が効果を生むとは断言できませんが、既存の手法を続けるよりは期待できます。８年前、マクリスタル大将はまだ中堅将校だったでしょう。彼がどのような視点でテロとの戦いを見つめてきたかが、いま問われているわけです。
