military.comによれば、オバマ政権の中では、アフガニスタンでの任務を減らして、パキスタンでの越境作戦を増やす戦略が検討されているようです。
ニューヨークタイムズによれば、ジョー・バイデン副大統領(Vice President Joe Biden)が提案した代替案は、アフガンでの任務を減らして、パキスタンのトライバルエリアで空爆と急襲を増やす戦略です。しかし、ロング・ウォー・ジャーナル(The Long War Journal)によると、米軍と情報当局者は、こうした戦略はパキスタン政府の不安定化とパキスタン軍と情報機関の反感を買い、タリバンとアルカイダのプロパガンダの中で取り上げられるだけと警告します。military.comに記事を書いたビル・ロッギオ(Bill Roggio)がロング・ウォー・ジャーナルに書いた記事によると、2008年1月から、米軍はパキスタンのトライバルエリアに対して74回の空襲と地上での急襲を実施し、アルカイダの上級指揮官13人、タリバンの上級指揮官1人、アルカイダとタリバンの中級指揮官と工作員15人が殺害されました(記事の末尾にそのリストが載っています)。これだけの幹部を殺害しているのに、彼らの組織は衰えを見せません。9月14日の空襲では、ハラカット・ウル・ジハード・イスラミ(the Harakat-ul-Jihad-Islami)の第313旅団(Brigade 313)指揮官ライヤス・カシミリ(Ilyas Kashmiri)を殺害しましたが、彼の代役が活動を続けています。20年間の活動経験を持つカシミリと同様に、彼の代役たちも危険な存在だといいます。
パキスタンに攻撃目標を移すというバイデン副大統領の意見は必ずしも外れてはいません。アルカイダはパキスタンにいるわけですし、攻撃目標は選択すべきです。しかし、この作戦には欠点もあります。それを指摘したのがロッギオ氏の記事で、まさに幹部をいくら殺しても代わりが出てくるという問題です。アルカイダに参加したがる者は中東全域と、その他の地域に大勢いるのです。従って、幹部をいくら殺しても、その下位の者が昇格して指揮を引き継ぎます。この問題は対テロ戦争の初期からずっと言われ続けてきました。では、アフガンで戦いを続けるのが正しいかというと、実はロッギオ氏の主張はアフガン戦についても言えることに気がつきます。タリバンも北部同盟と米軍の共同作戦で一時は勢力を減少させましたが、その後に復活を遂げました。しかも、アフガン戦に集中することはアルカイダを直接攻撃しないことでもあり、パキスタンを攻撃するよりもなお目標に遠い作戦であることが分かるのです。結局、どちらの作戦を選んでも勝利には遠いということが分かります。これがこの戦争の最大の難点なのです。湾岸戦争の「砂漠の嵐作戦」は確実に勝てると手筋が読める作戦でした。イラク侵攻の「衝撃と畏怖作戦」も同様でした。手筋が読める軍事作戦は見ても安心していられるのですが、先がまったくとか、ほとんど読めない作戦もあります。イラク戦もバグダッドが陥落した後はお先真っ暗でしたし、アフガン戦はなおのことでした。この先どうなるのかと聞かれても、「分かりません」と答えるしかないのが正直なところです。ビンラディンを殺したところで、誰かが引き継ぐだけです。
前から言っていますが、植民地時代から、こうしたテロ活動は存在しました。テロを防ぐには、極度の貧困や抑圧を減らしていくしかありません。誤解や偏見が含まれているとはいえ、イスラム世界と欧米は不幸な対立関係を抱えてきました。これを解消していくことしか対テロ戦争の終結はないでしょう。問題は、こういう政策が「敵に屈する」ように見えるため、どの国でも支持を得られないことです。このことはほとんど問題視されてきませんでした。ここに第2の問題があるわけです。