アフガン大使館の警備に逸脱行為

2009.9.7



 POGOの報告書を読むと、さらに興味深いことが分かりました(報告書はこちら)。事件が発覚したのは民間軍事会社「ArmorGroup North America」の社員による内部告発です。そして、報告書を読むと、報じられていることよりも事態が深刻であることが分かりました。今回はそれらのいくつかを紹介します。

 報告書によれば、AGNAはこれまでに何度も問題を起こしています。米国務省は問題を認識しながら、改善に失敗してきました。また、AGNAだけでなく、他の民間軍事会社も問題を起こしていることが報告書には書かれています。AGNAの社員が国務省ではなく、POGOに通報したのは、多分、ここに理由があるのでしょう。国務省内で埒のあかない議論が続くよりは、POGOが世間に公表してくれた方が効果が期待できるわけです。

 昨日紹介した記事のリンクが不適切だったので、正しいリンクを紹介します。問題の写真(ここをクリック)をみると、裸で大騒ぎしている警備員の姿を見ることができます。ウォッカを背中から垂らして尻の割れ目から落ちてくるのを飲んだり、他人の乳首をなめたり、他人に小便をかけたりする姿が写っています。売春婦を連れ込んだ件は、上司の誕生日祝いのために、上官自身が連れ込んだことが分かっています。警備員がほとんど裸の格好で酒を片手に食堂に現れて、アフガニスタン人の職員を猥雑な言葉で脅迫した件も報告されています。また、そもそも警備員は人数が不足しており、十分な警備ができていないとの問題も示されています。

 気になっていたグルカ兵の英語力の問題ですが、報告書によると、かなり深刻です。ある警備員が「君の背後にテロリストが立っている」とグルカ兵に警告したところ、彼は「アリガトウゴザイマス。ソレカラ、オハヨウ」と答えたという話が報告書に載っています。これで気がついたのですが、外人部隊としてグルカ兵を使う場合、グルカの指揮官に攻撃目標を支持すればよく、あとは彼らに任せておけるのに対して、大使館の警備の場合、頻繁にコミュニケーションをとる必要があります。確かに、これではうまくいくとは思えません。

 今回の事件では、ヌードパーティやパワーハラスメント以外にも、軍事的に大きな問題が明らかになりました。それは、多くの警備員から懸念が示された、夜間の大使館外での偵察任務です。警備員たちは武器を携帯し、暗視ゴーグルやその他の装備を身につけて、夜間に大使館外で廃墟に隠れて偵察活動を行いました。契約上の規則では勤務中は制服を身につけることになっていますが、彼らはアフガン人の衣装を身につけて活動しました。警備員は大使館を警備する訓練はしていますが、館外での偵察活動の訓練はしていません。報告書は、こうした行為は、警備員がタリバンやアフガン人に拉致されるなど、軍事的な事件に巻き込まれる危険があり、大使館の警備を危うくしたと指摘しています。

 この夜間偵察活動が何のために行われたのかが、私は非常に気になります。テロ攻撃の情報があり、それに対抗するために待ち伏せを行ったのか、新人をいびるためなどの単なる肝試しだったのかは明らかにされるべきです。アフガン人に変装したのは非常に問題です。民間軍事会社が何度も問題を起こし、ジュネーブ条約が守られていないという批判に応えるため、米政府は民間軍事会社の社員もジュネーブ条約を守らなければならないと方針を変更しました。契約に制服を着用するよう定めているのは、このためです。同様の規則は、ジュネーブ条約を批准している正規軍の軍規に定められており、民間軍事会社の規則もそれに準じたものです。変装したのは制服姿だと、直ちにアフガン人に察知されるので、タリバンに見えるようにするためでしょうか。

 これでは、同時多発テロ以降、アメリカが国際法を守らなくなったという批判が再燃しかねません。さらに、マクリスタル大将の下で進められている新戦略の足を引っ張るのも明白です。先日、大規模な誤爆事件がありましたが、これは現地の指揮官が民間人がいないと報告したために空爆が承認されたものであり、民間人がいる場合は空爆を行わないという方針が変わったわけではありませんでした。折角の尽力も、馬鹿な連中の蛮行によって無に帰すことになります。


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