military.comによれば、アメリカで第5世代戦闘機のF22とF35に対する批判が強まっています。
米空軍はイラクやアフガニスタンで地上軍を支援するために用いられないと見込まれるジェット戦闘機(F-22・F-35)に数千億ドルを注ぎ込んでいます。米本土6カ所に配備された約140機のF-22は、現在の見積もりでは1機あたり約3億5,000万ドルかかっており、さらに約50機の引き渡しを待っています。F-35は1機あたり2億ドルかかっていると見込まれています。戦略および国際研究センター(the Center for Strategic and International Studies)のガイ・ベン=アリ(Guy Ben-Ari)は、「コストはまったく驚異的だけども、結局、適当な額に落ちてきますし、エンドレスではありません」と言います。米空軍のF-35A調達将校のジョン・ピーターソン少佐(Maj. John Peterson)は、第五世代の戦闘機は第4世代の戦闘機(F-16、F-15、F/A-18など)を上回る4つの特徴(敵レーダーの回避、機動能力、多種類の任務をこなす能力、パイロットにより多くの有益な情報を伝達する能力)があり、第4世代の戦闘機の一部はその能力の一部しか持っておらず、すべてを持っていないと主張します。
カト協会(the Cato Institute)のクリストファー・プリブル(Christopher Preble)は、F-22はイラクやアフガンで軍事行動に参加することはないだろうが、だからといって悪い航空機ではないと述べました。しかし、コストに問題があるという声が出ています。プリブルは、ワシントン・ポストの記事を引用し、F-22を飛ばすのに1時間あたり40,000ドルかかると言いました。ベン=アリは、「F-22を他の航空機にできる任務に使うことは、子供を学校に連れて行くのにランボルギーニを使うのと同じです。それができるとしても、本当に必要でしょうか?」と言います。F-22の調達将校クレイ・バーテルス少佐(Maj. Clay Bartels)は、「F-22は求められれば、いま地上支援任務を行えますが、その主要な役割は制空権を確実にすることで、それは現在の戦争では必要とされていません。制空権はすでに成し遂げられています」と述べました。F-22の支持者は、それが遠方から敵の航空機を探知して照準する技術的な優位性を持っており、敵は手遅れになる前まで戦いの中にいたことが分からないだろうと言います。
F-35Aは、テストが予定通りに進めば、2013年までに1,763機の最初の1機を受領するだろうと予測されています。海兵隊は最近、ロッキード・マーティン社からF-35の初期バージョンを入手してテストを開始しました。米議会はF-35の別のエンジンのために4億6,500万ドルの追加費用を決めました。2025年までに航空隊の半分をF-35で占めさせる予定の米空軍は、2014年まで続く予定の開発とデモンストレーションのフェーズにかかっています。ピーターソンとバーテルスは、F-35とF-22は、特定の補完的な役割を軍務に提供するために設計されているけども、それらは全体の一部にすぎず、軍は現役世代の戦闘機の一部が何十年も使われると見積もっていると述べました。ベン=アリは、「空軍は現在の紛争を処理するためだけでなく、未来のそれに対処できる必要があり、現在の任務のために現在の航空隊は能力を持っていますが、未来のそれに対しては私は確信していません。新しい航空機を半年で設計して生産することはできません。将来の危険は事前に回避するものです。歴史を振り返った時に、計画をキャンセルしたり、リスクを無視した人になりたがる政治家や軍人はいません」と言いました。
こうしたハイテク戦闘機の話は、日本で誤って紹介され続けているので、一般人にとって理解しにくい世界となっています。ほとんどのメディアは軍事オタクのために戦闘機の性能ばかりを論じ、一般人はそれに嫌気を感じて考えようとしなくなるのです。書店の軍事コーナーに並ぶ本を手にとってみても、訳の分からない言葉や数字か、兵器の写真ばかりが並んでいるので、本を書棚に戻してしまうのです。
分かりやすい論点としては、特に空軍の兵器の高額化は、20世紀以降顕著になっていることがあります。木製の複葉機と最近の戦闘機の価格が比べるべくもないのは、誰にでも分かります。しかし、そうした高性能の航空機を持っていないと、制空権が奪われ、地上戦を行うのに支障が生じ、結果として国を失うことになると説明されると、そうしたコストも必要かと、誰もが考えるようになるのです。最終的には、自分には難しいことは分からないので、専門家が集まって決めてくれればよいと考えるようになるわけです。ベン=アリの最後のコメントのように、政治家や軍人もあとで批判されるのが恐いので、新兵器の開発にはできるだけ予算を充てようとします。家族が死の病にかかったとき、医師から治療方針を問われると、誰もが「可能な限り延命治療をしてください」と答えてしまいます。たとえ完治する見込みがなくても、死ぬまで金に糸目をつけない治療を望むのです。ハイテク兵器の開発に関しても、これと似たようなことが言えます。この結果、軍人は誰の反対も受けずに、国家の重要部分で権限を握ることができるようになるのです。これが兵器の高額化が止まらない理由です。でも、実のところ、ハイテク兵器の開発が祖国を優位に立たせているのかは、デメリットも含めて考えると、よく分からない部分が多いのです。
戦闘機に使われる技術の多くは、一から開発される物が多く、開発費が高くなるのは当然です。最終的に、空軍は空から何でも探知できて、何でも破壊できる戦闘機を欲しがるでしょう。1機のハイテク戦闘機にかかる費用で、陸軍の部隊を山ほど維持できるという時代が来るわけです。だから、軍事企業は自己資金だけでは開発できないと申し立て、国から高額の開発資金をもらうのが常です。こうした開発計画は表向きには科学技術の集合のように見えますが、実際面では政治的なものです。「科学は金がなければ身動きが取れない」のです。開発にどれだけの金を見積もり、どれだけを政府に要求し、議会に必要な額(できれば、それ以上)を認めさせるかが、まず問題になります。あとは、定期的に「ここまで進んでいます」と軍や議会に報告できれば、政府は金を出し続けるものです。仮に開発が失敗に終わっても、既に十分な資金を得ているので、企業の腹が痛まない場合もあります。もちろん、経営者としては、そうでなければならないのです。こうなると、軍事企業の仕事はどれだけの金を国から引っ張るかが中心となり、本来の兵器開発は二の次になりかねません。特に、F-35の開発は問題続きで、史上最高額といわれるこの軍需契約は、本当に完成するのかが疑問視されています。
空軍の軍人にとって、これ以外に権限を増やすには核武装を主張することくらいしか手はありません。核兵器の運搬を担当することで、陸軍の支援をするだけから、自ら敵国に致命的打撃を与える空軍に変身できるのです。
日本においては、戦後、保守系の論客はアメリカ追随のための、あらゆる理論を展開してきました。本当の意図が別のところにある意見が幅をきかせることも少なくありませんでした。そうした嘘の論理に日本人は慣らされ、防衛問題に関する議論は不活発な状況が続いてきました。民主党政権になっても、防衛大臣と外務大臣の発言には、アメリカ政府の意向を受けたものが多いのは、そのためです。政治家自身が意識改革をして、より明朗な防衛議論を行うようになるべきです。もちろん、国民も意識を変える必要があります。
本来、military.comには、F-35の開発を支援する記事が載るはずですが、このように否定的な記事が載ったことを、日本人としてどう見るかといった視点からも考えてみるべきです。